連休の初日、私は後輩ちゃんに伝えた時間より早くに、おにぎり宮さんの前にいた。はぁ、宮さんに会うの緊張する。いや、今日は後輩ちゃんと北さんのためだもの! 先輩モードで行かなきゃ!
「おはようございます!」
大きな声で挨拶しながら扉を開けると、宮さんは握りたてのおにぎりをパックに詰めているところだった。
「おはようございます。ミョウジさん、早いですね」
「少し早く着いちゃいました。それより、おにぎり握って下さったんですね。ありがとうございます」
「朝飯食う時間あらへんやろな思うてですね」
「私、手伝います!」
「ありがとうございます。ほな、こっちから回って入って下さい」
店の奥へと進み、初めてキッチンに足を踏み入れる。手をアルコールジェルで消毒してから、ビニルに包まれたおにぎりをパックにひとつずつ詰めていった。
「……なんか、こうして並んでキッチンに立ってると不思議な気分です」
私がそう言うと、宮さんはぽつりとひとり言のように放った。
「……なんか、夫婦みたいやな」
「えっ!?」
「あっ、すいません。気にせんといて下さい」
「……」
「……」
沈黙が流れて、時間が経つのがやたらと遅く感じた。……宮さん、この前のキスのこと、どう考えてるんだろう。告白とかされたわけじゃないけど、そういう……ことだよね? 私たち今、どういう関係なの?
関係性を言葉にできないのがもどかしくて、つい言葉が飛び出してくる。
「「あの……っ」」
しかし、声を放ったのは宮さんも同時だった。またしーん、と静まり返り、身体がかあっと熱くなってくる。どきどきして、どうにかなってしまいそうだ。
調理台の上で、指先と指先がこつんと触れる。そのまま宮さんに指を絡められて、ぎゅっと手を握られた。
〜〜〜〜っ!!!!
これってもう、そういうことだよね!?
けれども宮さんは次の言葉をなかなか言ってくれなくて、私も聞き出せなくって。うじうじしている間に、私のスマホがブブッと音を鳴らした。
『先輩、今駅に着きました〜! すぐ着きます!』
「……〇〇ちゃん、もうすぐ着くそうです」
「そか。じゃ、今日は俺らが後輩さん応援しましょか」
私がこくりと頷き、絡まっていた指が自然と解ける。おにぎりパックを袋に詰めて、ふたりで店の前へと出ていった。おにぎりのパックは温かいけど、それとは違う温もりが手に残っていた。
後輩ちゃんと合流すると、私たちは宮さんの車が停まっている駐車場へと異動した。後輩ちゃんが後部座席に乗り込んだので、私は無意識に助手席の方へと乗り込んでしまう。あ、しまった。隣じゃん。そう思った時にはもうシートベルトを締めていて、車が出発しはじめていた。
「ミョウジさん、すんません。俺のおにぎりひとつ、取ってくれませんか?」
「何味にします?」
「ん〜、牛たまマヨかな」
「朝からガッツリですね」
「男なんてそんなもんですよ。ちゃんとミョウジさんたちのはあっさり系の入れてますんで」
宮さんのおにぎり袋から牛たまマヨを取り出して、ラップを捲ってそれを宮さんの方へと差し出す。受け取って食べるとのかと思いきや、そのままあーんされて、おにぎりを落としそうになってしまった。
「あっ、これやとミョウジさんが食べられへんですね! 自分で食べます」
「じゃ、じゃー、いただきます……」
宮さんにおにぎりを託して、私は自分のおにぎりの包みを開いた。おかかとうめの2種類のうち、おかかを選択する。かぷりと噛みついてみれば、やさしい味が口いっぱいに広がった。
「ん〜! おいし! やっぱり私大好きです!」
「ありがとうございます」
「……おにぎりが」
大好きです! のあとにそう付け加えると、宮さんはふふっと笑った。嘘。本当は、宮さんのことが大好きって伝えたいのに。これでも私、結構ハッキリもの言うタイプなんだけどなぁ。恋愛になると、てんでダメダメだ。
宮さんの車のオーディオからは、巷で話題のラブソングが流れていた。後輩ちゃんと北さんがデートしたときに聴いた曲を、北さんから聞き出してわざと流しているらしい。そう、これは後輩ちゃんのために流している曲。それでもせつない恋心をうたった歌詞に共感してしまい、つい自分と重ねてしまう。
ねぇ、この恋の答えを知りたいの、なんて。そんな歌詞、私のための曲じゃん、と思った。