起きているときも、眠っているときも、どこにいたって彼女のことを思い出す。今にも雪が降りはじめそうな夜空、色を変えるイルミネーション、冷たい空気、冬のにおい。苗字さんのこと、拐いたい。そう言った日のこと。
けれども現実は『思い出』よりも鮮明で強烈だ。空気感、匂い、彼女の涙ぐんだ声と変わらない顔。
変わっていなかった。驚くほどに変わっていなかった。あの頃の俺は何を恐れていたんだと、過去の自分をぶん殴ってやりたいほどだ。変わることが怖かった。だからあの冬、拐ってしまいたいと思ったのに。
きっと彼女は、新しい日々に飛び込んでいって、俺のことなんて忘れてしまうのだろう。そう思っていた。いや、思い込もうとしていた。
けれども、現実はそうじゃない。記憶の中の彼女は泣いていて、今日見た彼女もまた泣いていた。三年ぶりに見た『彼女』は、どこまでも『彼女』だった。
「……かげやまくんが、かげやまくんだったから」
そう言って涙をこぼす彼女は、どこまでも透明で綺麗で。このまま抱きつぶしてしまいたいとさえ思った。
忘れられるはず、ねぇだろ。
◇
「影山~、さっきの子本当にいとこなの? 全然似てなかったけど」
ロッカールームで汗を拭いている時に話しかけてきたのは、いつもの同期だった。気さくでいい人だけれど、彼は少々人に踏み込みすぎるところがある。その質問に答えることをせず、黙って汗を拭く。
「……シャワー浴びてきます」
「元カノだ!」
背を向けたあとにそう聞こえてきて、俺は無言でシャワー室へと向かった。無視かよ~、ガチ恋じゃん! と届く声を、閉まるドアが遮る。頭の中が、あの頃と今とでぐちゃぐちゃになっていた。
最後に会ったのはいつだ? そうだ、卒業式だ。その前にふたりで会ったのはいつだ? ああ、あの日だ。
春高で負けて帰ってきた翌日。冷たい空気が肺を満たした、あの冬の日。
彼女はまた泣いた。俺はいつも、彼女を泣かせてしまう。