おにぎり屋の宮さん1

 次こそは。

 次こそは企画を通してみせる!

 そう意気込んで向かった先は、部長の席。企画書を手渡すと、部長はふむふむと頷きながら目を通しているようだった。残業して作ったこの企画書。書かれている『おにぎり×こだわり米』の文字に、つい顔がにやけてしまう。

 今回は自信があった。なんせ、イケメン店主さん×イケメン農家さんのコラボなんだから。

「うん。いい企画だと思うよ。じゃ、これで苗字ちゃんと一緒に進めてもらえるかな?」

「苗字とですか?」

「あの子新人だけど、もう入社して三ヶ月以上経つでしょ? そろそろ担当持たせてもいいと思うんだよね」

「はぁ……」

「ってことで、今度から苗字ちゃんが農村地区、きみが稲荷崎方面の担当ね」

「えっ!?」

「じゃ、よろしく~」

 農村地区は、これまで私が担当していた地域だ。っていうことは、つまり……。私、北さんの担当から外れるってこと!?

 ひそかにイケメンだと思ってたんだけどなぁ。ま、向こうにその気は1ミリもないんだけれど。

「〇〇ちゃん、ちょっといーい?」

 私はデスクに戻ると、四月に入社したばかりの後輩に声をかけた。この子、やる気あるしいい子なんだけど、ちょっと抜けてるとこあるんだよねぇ。真面目なタイプの北さんと上手くやれるかな? ちょっと心配だな。

「はぁい? どうかしましたか?」

「この企画、私と〇〇ちゃんのふたりでやるから。それで、〇〇ちゃん今度から農村地区担当ね。私が今担当してる地区」

「ひえぇ!? 私、担当持つんですか!?」

「うん! 頑張ってね!」

 そこまで話したところで、先輩の山田さんと佐藤さんが首を伸ばして話に入ってきた。

「なになにー? 今度は〇〇ちゃんが北さん担当!? いいなー!」

「えー、羨ましい~!」

 山田さんも佐藤さんも、かつて北さんにべた惚れだった過去がある。私が担当している北さんは、そのくらい爽やかイケメンなのだ。

 後輩ちゃんが、きょとんとした顔で「北さんって誰ですか?」と口にする。すると山田さんはご丁寧に一冊のフリーペーパーを持ち出して、それをぱらりと捲った。

「これこれ! この人! 若手農家さんなんだけど、めっちゃイケメンなの!」

「へぇ~、確かにイケメンですね」

「でしょでしょ!? 会った人みんな彼に惚れちゃうから~!」

 先輩たちは北さんの写真を見ると、きゃあきゃあとアイドルファンのように盛り上がりはじめた。ミーハーだなぁ、本当。私も北さんのことイケメンだと思っているし、人のこと言えないんだけれど。

「それで、ミョウジは宮さん担当するの?」

 北さんの話で盛り上がっていると、私が心から尊敬している村田先輩が声をかけてきた。今回の企画も、今おにぎり宮さんを担当している村田先輩が協力してくれて成り立っているようなものだ。

「はい。企画前の交渉、出向いて下さってありがとうございました。私はまだ宮さんには会ったことないんですけど」

「まだ会ったことなかったっけ? 宮さんもかなりのイケメンだよ!?」

「そうらしいですね。ちょっと楽しみです」

 そんな話をしていると、先輩方が今度は宮さんの話でキャアキャアと盛り上がりはじめた。

 宮さんかぁ。どんな人なんだろう。まあ、会ったところで地方誌のライターと仕事相手っていう関係なんだけれど。とりあえずは、会ってご挨拶をしなきゃ!

 私はその日のうちに宮さんに電話をかけて、挨拶と簡単な打ち合わせのアポを取った。電話口で聞いた声は、どこか懐かしくてあたたかい気がした。