私が初めての相手だと思っていた。だって、あの研磨だし。付き合ってた子がいたなんて、そんな情報を耳にしたこともない。軽々しく、緊張してる? なんて聞いた私がバカだった。そんな情報、知りたくもなかった事実だ。
「べつに初めてじゃないし……」
研磨の部屋のベッドの上、制服のシャツのボタンを外しながらそういう彼は、緊張とはほど遠い顔をしている。そうだよね、もう高校三年生だし。春高後に爆モテしはじめた研磨だけど、その前に彼女がいたのならば周りにも知られていないと思う。私だって、存在すら知らなかったわけだし。
けれども胸の中はなんだか黒いものが渦巻いていて、気がついた時には事実でもなんでもない言葉が飛び出していた。
「わ、わたしも初めてじゃないから」
ごめんなさい大嘘です。それどころか研磨が初めての彼氏だし、自分で触ったことすらありません。
これから始まる行為に慣れたそぶりを見せ、それに伴うであろう痛みをごまかさねばならない。初体験のハードルが上がってしまった。でも発言を撤回はできないから、私は非処女を装うしかなくなった。くっそぉ。自分のせいだ。しょうがない。
「そう、安心した」
研磨はそう言ってシャツを脱ぐと、私の制服に手をかけた。あー、やっぱり処女って重いんだ。安心したって言うってことは、そういうことなんだろう。もそもそと入ってきた研磨の手の感触がくすぐったい。体に入る力を抜くことはできないし、胸の奥はばくばくと変な音を奏でている。おまけに目まで閉じてしまう始末。ファーストキスよりもかたくなった体が、重力に逆らえずに沈んでいった。はむ、とやさしく唇同士が触れ合う。
もう、どうにでもなっちゃえ。
「ふ、体かたすぎ」
「ひぇ……?」
「おれも緊張しちゃうから、困るんだけど」
「ご、ご、ごめんなさい……!」
緊張して強張って、こんなの萎えちゃうよね。それでも先程の言葉が嘘だと言い出せなくて、視界がゆらりと揺らぎはじめてしまう。あー、もう。エッチの時に泣く女とか、重すぎでしかない。
「ごめん、そういう意味じゃないから」
研磨の指が、私の目尻を撫でる。こつん、と額をくっつけられて、今度は軽く触れるだけのキスをされた。
「違ってたらごめん。初めてじゃないって、嘘?」
図星をつかれたら、ますます涙がとまらなくなった。まだ肝心なところに触れられてもないのに。押し倒されてキスをして、ちょっと肌を撫でられた。それだけ。それなのにこんなに体が強張ってしまって、おまけに嘘もバレバレ。情けなさすぎる。
「……だって、研磨初めてじゃないって言うし。処女とか重いよねって」
涙ぐんだ声でそう伝えると、研磨は眉間に皺を寄せて、はぁと溜息をついた。
「嬉しすぎるんだけど」
「え?」
「おれが初めての男ってことでしょ?」
「そう、だけど……」
「それに、ごめん。俺も嘘ついた。かっこつけたかっただけ」
嘘? なにが?
理解力が追いつかなくて、思考がこんがらがる。会話から推測するに、最初の研磨の言葉に対して言っているのだろう。たぶん。間違いじゃなければ。
「えっ、と、……。それって研磨も初めてってこと?」
「……彼女いたことないし。手繋いだのもキスしたのもぜんぶ初めて」
「そうなの!?」
「おれでも、好きな子の前ではかっこつけたいって思うよ」
何それ、嬉しすぎる。
研磨のぜんぶの初めてを私が貰えるんだと知って、さっきまでの黒い感情はどこかに飛んでいってしまった。それと入れ替わるように浮上してきたのは、なんと言い表わせばいいのかわからない胸の高鳴り。部屋の温度と湿度が、急激に増していくような気がした。
「研磨、大好き!」
そう言って抱きついたら、「もう知らないからね」って唇に噛みつかれた。それから先のことはお話することはできない。ごめんね。
あーもう、幸せすぎる。