いい加減諦めればいいのに(研磨)

※研磨→夢主→黒尾

※次の長編はここから派生したけど別物です。

 いいかげんに諦めればいいのに。
 自分でもそう思うくらいだから、他の人から見たらこの恋は余計に報われないものに見えているんだろう。六月の空は、グレーに染まっている。今にも泣き出しそうなその空は、叶わないこの初恋と同じだ。
 体育館から続く渡り廊下。その屋根の下でひとり、意味のない時間を過ごす。待っていたって、一緒に帰れるわけでもなんでもないのに。
「帰んないの?」
 聴き慣れた声に、ふと顔を上げる。そこにいたのは待ち人じゃなくて、もうひとりの幼馴染だった。
「研磨。どしたの? 体育館の方に戻ってきて」
「名前が見えたから来た」
「そっか。うーん、まだ帰んない」
「クロのこと、待っててもしょうがないと思うけど?」
 研磨はそう言って、私の目をじっと見た。この瞳に見つめられると、嘘はつけない。まるで猫に睨まれたかのような、ごまかしがきかないような、そんななのだ。
 彼はきっと、私の報われない初恋をしっている。たぶん、ずっと前から。
「あー……、うん、分かってるよ」
「じゃあ帰ればいいのに」
「そうだね」
 渡り廊下のずっと先、部室棟の方に見慣れた黒髪が見える。隣には私と同じ女子の制服。自分よりもずっと華奢で可愛らしいその子が、今は彼の隣を占領している。
 あー、……だよね。そうだよね。一緒に帰るんだよね。
 幼馴染だから特別だと思っていた。待っていたら一緒に帰れるかもしれないなんて、淡い期待は降り出した雨に打たれて消えていく。開かれた黒色の大きな傘の下には、愛しい彼とその恋人が肩を並べていた。
 期待なんかして、本当ばかみたい。いい加減諦めればいいのに。
「いい加減諦めればいいのに」
 隣からそう聞こえて、はっと顔を上げた。口を開けば溢れそうになる涙を、ぐっと飲み込む。その涙が流れないように、顔を上げたまま研磨の顔を見る。ふっと目が合ったその瞬間、彼の唇が緩く弧を描いた。
「そろそろ、おれにしときなよ」
「……は?」
「は? って……、結構傷つくんだけど」
「こんな時に冗談やめて」
「……だいぶ前から、ずっと本気だけど?」
 そんな真剣な顔しないで。そんな真面目な顔しないで。そんな、恋してる男の子みたいな顔しないで。私ばかだから、すぐ傾いちゃいそうになるよ。
「うーん、どうしよっかな」
 そう答えた声は少し震えていた。雨が本降りになる。傘は持っていない。もう少し雨宿りしてあてもいいかもしれないな。そう思ったのはなぜだろう。
 きっと、私の初恋の終わりまであと少し。