体育祭も後半に差しかかる頃、飽きてきた女子生徒たちの会話は専ら恋愛談義となっていた。日陰にある壁にもたれかかり、ぼんやりとグラウンドを見つめる。私は黙ったまま、近くにいる女子たちの恋バナに耳を傾けた。なぜならば、私の大好きな西谷夕のいる男子バレー部の話が繰り広げられているからだ。
「バレー部だと誰がいい〜?」
「えーっ? 縁下くんでしょ! 主将だし!」
「木下久志のサーブ見たことないの!? チョーカッコイイ!」
「意外なところで成田くんが一番なんだよ結局!」
「田中は?」
「美人の彼女いるでしょ。マネだった先輩」
「えーっ!? ちょっといいなとか思ってたのに〜。でもあの人ならしょーがないか! じゃー二年は!?」
「二年出すのはズルいって〜! 私影山くーん♡」
なぜだ。なぜ西谷夕の名前が出てこない!?
いや、西谷がモテると困るんだけど! ライバルは増えない方がいいんだけど! それはそれとして、好きな人が女子たちの恋愛対象に入っていないのは悲しいものがある。
「友よ……、なぜ西谷はモテないのだろうか」
思わず変な口調になってしまう自分がいる。さっきまで無言だった私に話しかけられた友人は、びくりと震えて、「だって西谷だよ?」と放った。何だそれは。
あんなにイケメンなのに!? スーパーリベロなのに!? 君たちの目は節穴か!?
「西谷だからいいんじゃん〜! ほら、次借り物競走出るみたいなの! は〜、カッコイイ!」
「はいはい。あ、そういえばさ、西谷も清水先輩のこと好きだったんだって〜」
「清水先輩?」
「田中の彼女」
ん!? ンンンンン!?
ちょ、それは初耳だ。田中の彼女って、あのマネしてた超絶美人の先輩だよね!? それはちょっと、勝てる気がしない。
「えー、ショック……」
「ほら、西谷の番だよ!」
「ふえぇ。いいんだ私は、眺めてるだけで……」
パン! とピストル音が鳴り響き、三年男子による借物競走が始まった。自然と体に力が入り、前のめりになって愛しの彼を見つめる。西谷の隣を走っているのは田中だ。ほぼ同時に借物が書かれた紙にたどり着いて、そしてまた同時に二人の動きが止まった。
「潔子さんんんんんん! 好きだァァアアアアアア!」
田中の大声が響く。彼が走っていった先には、どうやらこの体育祭を観に来ていたらしい卒業生、清水先輩の姿があった。わぁお、遠目に見ても美人。お題何だったんだろ? 恋人?
『実はこの回、お遊びで全員のお題を好きな人にしているらしいです! さすが田中くん! ストレートですね〜!』
放送委員の声が聞こえた瞬間、キャー! と女子たちの騒ぐ声が響く。男子たちが戸惑っている中で、西谷の顔が真っ直ぐにこちらを向いた。
せつないよね、西谷……。清水先輩は田中の彼女だもんね! せつない! せつなすぎる!
でも……、なんか、こっちに近づいて来てない!?
「名前!」
は!?
猛ダッシュで近づいてきた西谷に、ぐいっと腕を掴まれる。何が起きたか理解出来ずにいる私を連れて、西谷はまた猛スピードで駆け抜けた。あ、あ、足もげそう!
そんな私を心配したのか、まさかのお姫様抱っこでかかえ上げられてグラウンドを爆走される。ゴールに向かっている田中を追い抜き、まさかの一位でゴールテープを切った。
「は!? え!? 何!?」
「俺は名前のことが好きだ! だから連れて来た!」
キャー! とまた女子たちの声が響く。放送委員が興奮した様子で、『まさかの一位は西谷くんでした! これは公開告白でしょうか!?』なんて叫んでいる。もうマイクいらないんじゃね、ってくらいの大声で。
「!? 清水先輩のこと好きなんじゃなかったの!?」
私がそう問うと、西谷は頭に疑問符を浮かべた様子で首をかしげた。二位のテープを付けられた清水先輩と田中の方を見て、うんうん、と頷く西谷。何!? 何に納得したの!?
「あー、潔子さんは信仰っつーか、アレだ! 神様!」
「神様!? 信仰!?」
「俺はいつかインドに行きたい!」
「はい!?」
「インド人は信仰深いからな! 俺はそれに共感するわけだ!」
「それとこれとがどう関係あるの?」
「潔子さんのことは崇めてるけど、ケッコンしてくれとかそういうことは一切思わない! そういうことしてぇと思うのは名前だけだ!」
「ケッ……!?」
「っつーことだ!」
お姫様抱っこされたまま、ドヤ顔の西谷を見上げる。はーっ、漢気ありすぎでしょ。本当、一番カッコイイよ。好き。好きすぎる。
「……好き」
なんて答えたら、西谷は顔を真っ赤にして「はぁ!?」と叫んだ。断られると思っていたのだろうか。それなのに公開告白したの? むり、好きすぎる。
西谷夕が爆モテしたのは、その直後からのお話。
体育祭で保健係の東峰旭に担がれてまんまと惚れる
運動音痴に体育祭は必要ない。どうか雨でも降って中止になってくれ!
そう願っていたものの、超絶晴れ女の私に雨乞いは無理だったようで、当日は雲ひとつない快晴だった。気持ちのいい秋晴れですね、なんてレベルじゃない。夏でしょ、これ。入場門の向こうには、真っ青な空が広がっている。
三十五度のとろけそうな日、メイン競技のリレーと騎馬戦の間に挟まれた時間に、私の出場する障害物競走が始まった。運動の出来るパリピどもは、リレーか騎馬戦どちらかに出場する。つまり、余りものの運動音痴どもがこぞって出場するのがこの障害物競走というわけだ。
そこで私は閃いた。これ、ワンチャン私が一位とかいう奇跡が起こるんじゃない!? 人生で初めて体育で目立つとかいう奇跡が起こるんじゃない!?
そう気づいてソワソワしはじめた私に話しかけてきたのは、同じクラスの東峰だった。ちょっと頼りないけど、いいやつなんだなぁ、こいつ。
「苗字、次出んの?」
「東峰じゃん。うん。東峰は? 騎馬戦? リレーいなかったよね」
「あー、俺は保健係だから待機」
「そっか、頑張って!」
「苗字も頑張って」
保健係かぁ。バレー部エースも高校生なのね。駆け足で入場する私に、東峰がゆるく手を振ってくる。私もゆるっと手を振り返して、頭を戦闘モードに切り替えた。
エース様が応援してくれたのだから、これは奇跡起こるんじゃない!?
そんな感じで調子に乗ってしまった私は、張り切りすぎてしまったのだ。
順番はすぐに回ってきた。パァンと鳴るピストルの音に合わせて一気に駆け出す。走り方が変だと笑われた過去を消し去るかのように、私は駆け抜けた。網をくぐり抜け、平均台を渡り、フラフープを回す。ラストは小麦粉の中に埋まっている飴玉を、口だけで拾い上げて走るのみ!
やべぇ走り方の女がいる、と集まってきたギャラリーに爆笑されている気がするけれど、気にしない。顔に小麦粉が大量にひっついた気がするけどそれも気にしない。飴玉を拾い上げ、私はゴールに向かって猛ダッシュした。
よし! 私が一位だ! 後ろを振り返るが、二位の人はまだ飴にたどり着いていない。このままゴールテープを切るだけだ。ゴールまであと五メートル、四、三、二、一……。
……え、なんかクラクラするかも。
私の足がもつれたのはその時だった。途端に傾いていく体。宙を白い粉が飛び、顔面から地面に着地する。横を向いた胴体により切られたゴールテープが、ひらひらと靡いたのが一瞬だけ見えた。痛みを感じた顔面を拭うと、赤く染まった小麦粉が手のひらにひっついた。
「キャー! 誰か! 保健係!」
誰かが叫ぶ声に包まれながら、意識が朦朧としていく。どこかのモブ男が、「ダッサ」と笑うのが聞こえた。うえぇぇ、消えたい……!
「苗字! 大丈夫か!?」
保健係! と呼ぶ声が聞こえてからたったの数秒。颯爽と現れたのは、あの頼りないエース様、東峰旭だった。「だいじょばない……」と伝えた途端に浮き上がる体。ふわりと浮遊感を覚えて目を見開くと、まさかの東峰にお姫様抱っこをされているではないか!? え、なにこれ、頼もしすぎる!
「ほら、飴吐き出して」
「ひえぇん」
「救護テントまで行くから、掴まってて」
「ひゃい」
「……それから、苗字を笑ったやつら、お前らの方がダサいよ!」
最後にそう叫んで、お姫様抱っこで救護テントまで走る東峰。きゃー、と女子たちの悲鳴がきこえる。なんだこれ!? なんだこれえええぇ!? なんでパリピ体育祭で私が主人公みたいになってるの!?
救護テントに着いた途端、保健医の先生と東峰とでてきぱきと処置をしてくれた。あたたかいタオルで、東峰が私の小麦粉だらけの顔を拭ってくれる。
「苗字、鼻血止まった?」
「うん、ありがと……」
「よかった。苗字の可愛い顔が血だらけになって、本当にビックリしたから」
可愛い!? 今、可愛いって言いましたか!? この小麦粉鼻血女が!?
「競技中の苗字、すごいカッコよかったよ」
「ひぇ!? そんな! ただの運動音痴だから!」
「あー、ごめん。言い方間違えた。……すっごい可愛かった」
ンンンン!?
頼りないけどいいやつ、なんて思っててごめん! 頼りないけどいいやつじゃなかったわ。頼れるスーパーヒーローだったわ。本当、こんなことされたらもう。
「誰にでもこんなこと言わないから」
ンンンン! もう!
……惚れたわ。
体育祭で澤村大地の策略にハマってまんまと惚れる
澤村大地とは真っ直ぐで、真面目で、漢気のある人だとそう思う。同じ教室で過ごしている時からそう思っていたけれど、こうして一緒に体育祭を過ごしていると余計にそう思うようになった。
私と澤村はどうやら縁があるようで、体育祭準備の時からよく顔を合わせた。先生に頼まれた荷物を運ぶ係でペアになったり、二人三脚のペアになったり、有志が少ないからとくじ引きで決めた応援団が一緒になったり、ラストのフォークダンスで手を繋いで歩くペアになったりと、何度も顔を合わせていた。その度に澤村は「また苗字か、よろしくな」と笑って挨拶してくれたから、私も他の知らん男子じゃなくて澤村でよかったな、と思うくらいの存在にはなっていた。好きとかそんなんじゃないけど。
だから、フォークダンスの直前でペアが変わった時は少しがっかりしたんだ。欠席者の関係で女子がふたり余るから、苗字が男子役をしてくれと、先生に頼まれたその瞬間。澤村と踊れないじゃん、と思ってしまう自分がいたのだ。
◇
苗字名前とは、純粋で素直で、何の疑いもなく俺を見てくれる人だとそう思う。同じ教室で過ごしている時からそう思っていたけれど、こうして一緒に体育祭を過ごしていると余計にそう思うようになった。
俺と苗字は縁があると思い込んでいるようで、体育祭準備の時からよく顔を合わせた。先生に頼まれた荷物を運ぶ係でペアになったり、二人三脚のペアになったり、有志が少ないからとくじ引きで決めた応援団が一緒になったり、ラストのフォークダンスで手を繋いで歩くペアになったりと、何度も顔を合わせていた。その度に「また苗字か、よろしくな」と挨拶する俺に向かって、「私たち縁あるね」なんて純粋に笑う苗字が眩しかった。好きだ。好きすぎてなんだか申し訳なくなってくる。苗字はたぶん俺のことを誤解しているし、まさか全て俺の策略でペアにされているだなんて微塵も疑っていないのだから。
だから、フォークダンスの直前でペアが変わった時は少しホッとしたんだ。欠席者の関係で女子がふたり余るから、苗字が男子役をしてくれと、先生に頼まれたその瞬間。苗字を騙していた後ろめたさから、逃れられた気がした。
◇
ラブソングが鳴り響く。好きだとか、全てをかけて誓うよだとか、そんな甘ったるい歌詞が耳に届いて、私は顔をしかめた。こんな、誰にでも刺さるようなラブソングが流れているというのに、私は今フォークダンスで男役をつとめている。ペアとなった女の子と手を繋ぎながら、その子に「なんで名前男子役なの?」と笑われた。
「あはは、女子が余ったんだって」
「えー! カッコイイ! 私名前と付き合おっかな!」
そんな私のふたつ後ろを歩いているのは、本来ペアじゃない子と手を繋いで歩いている澤村だ。本当だったら、私とふたりで歩いているはずだった。じきにダンスが始まって、その子と澤村は踊るのだろう。好きじゃないはずなのに、うつむいてしまうのはなぜだろう。分からないけれど、澤村とその子の会話に耳を傾けてしまう自分がいる。
何を話しているんだろう。耳をすませたその瞬間、入場曲のラブソングが止まった。
「……なぁ、頼みがある」
澤村の声が聞こえる。ペア残しがうん、と頷いて、また澤村の声が響いた。
「頼む! 苗字と男役交代してくれ!」
ん?
んんんんん!?
いま、なんて言った!?
爆笑しながら「いいよ」と答えてくれた女の子に向かって、澤村が手を合わせて謝っている。「ハイ、リア充は交代ね〜!」と私にハイタッチしてきた女の子に、背中をトンと押された。弾みで飛び出してたどり着いたのは、澤村の向かいにある空いたスペースだ。顔を上げると、真剣な目で真っ直ぐにこちらを見る彼の姿。何かを謝っているかのように、こちらに向けて手を合わせている。
「苗字! 俺と踊ってくれ!」
ンンンン!? 私!?
しかし、私の耳に届いたのは、踊ってくれのひと言だけじゃなかった。周りに聞こえる大きな声で、澤村が続ける。
「苗字のことが好きだ!」
えっ!? えっ!?
いま、何を言われたの!る
「正直、全部苗字とペアになるように工作したのは俺だ! ありとあらゆる手を使って!」
「そうなの!?」
「ああ! このフォークダンスのラブソング選んだのも俺だ!」
「ええ!? それもなの!?」
「俺は苗字が思ってるような男じゃないけど、これだけは言える! 苗字のことが好きだ!」
まさかの。あの澤村大地が裏工作働いてまで私と接触したがっていたとは、誰が想像しただろうか。フォークダンスの音楽は始まらないし、みんな見ているしでどうすればいいのか分からない。分からなさすぎる。けれども澤村があまりにも真っ直ぐに言うから、私も覚悟を決めることにした。いいよね、体育祭の日くらい。
「澤村は男らしいね」
「裏工作するような男なのにか?」
「うん! そういうところも、ぜんぶ含めて好きになったみたいなんだけど」
フォークダンスの音楽が鳴り始める。まるで私たちを待っていたかのように、メロディが踊りだす。
「改めて、俺と踊ってくれるか?」
「はい!」
歓声に包まれながら、私たちはラブソングのイントロ部分を一緒に踊った。澤村大地とは真っ直ぐで、真面目で、漢気のある人だとそう思う。同じ教室で過ごしている時からそう思っていたけれど、フォークダンスで告白されて、より一層そう感じるようになった。加えて芽生えたのは、私から彼に向けての恋心。自覚したばかりだけどさ、これだけは言えるよ。
私はきみのことが好き。
部活対抗リレーで目立ちすぎてる影山飛雄にまんまと惚れる
カッコイイな、こいつ。そんでもって自分がイケメンだと自覚しているタイプだな。
第一印象はそんな感じ。バレーがずば抜けて上手いし、クールだし、背高いし、顔整ってるし。
ジュニアバレーボールのチームで飛雄に出会った時から、私の世界は変わった。好きなのか、と問われたら分からない。これは憧れに近いものなのかもしれない。彼のストイックさとか、技術力なんかに惹かれているのは事実なのだから。
そんな日々が続き、いつの間にやら同じ高校に進学したあとも、彼への憧れ? いや、尊敬のような念は変わらずに続いていた。飛雄はモテる。まあモテるからといって恋人は作らないだろうし、バレーボールが一番なのだろうと私は安心しきっていた。いや、安心って、好きとかそんなんじゃないんだけど!
しかし。そんな日々に終止符を打つ時が来た。春の高校バレーだ。まさかの飛雄が所属している男子バレー部が春高に出場して、彼がスタメンとしてテレビ画面にデカデカと映ってしまったのだ。すると、何が起こるだろう。そう、飛雄のモテ度が100%から200%に上がってしまった。他校生にまでファンが出来るほどに。
「小学校から一緒だっけ? そっちこそ寂しいんじゃなーい?」
体育祭の終盤、今から始まろうとしている部活対抗リレーを待ちながら、親友はそう言った。小学校から尊敬している同級生が爆モテしている。確かに寂しい気持ちはあるが、好きだとかはよく分からない。飛雄の相棒、日向を心待ちにしている親友に向けて、「ほら、日向走るよ!」と話題を変えた。パァン! と音が鳴り響き、選手たちが全力で走りはじめる。
体育祭のラストを飾る部活対抗リレー。男子バレー部のアンカーを飛雄がつとめるようだった。バトンが渡され、またバトンが渡されて、アンカーまであとひとり。男子バレー部の順位は二位だ。隣に陸上部やサッカー部、野球部なんかが並ぶ中、ウォーミングアップしている彼の姿が目に入る。
「影山せんぱぁい♡ 頑張って〜♡」
なーんて甘い声援がどこからか飛んできて、影山コールが巻き起こった。男子まで飛雄を応援しているし、春高稲荷崎戦の応援かよ、なんて思ってしまう。くそぉ、陸部に勝てるわけないのに。ばっかじゃないの。ちょっと春高で目立ったくらいで爆モテしてさ。飛雄も調子乗ってんじゃないの!? ばーか、負けちまえ。
なんて、思っていたひねくれものの私の目に、バトンを渡された飛雄の姿が飛び込んできた。猛スピードで走る彼の姿は、スポーツ少年団のリレーで見た姿を思い出させる。あー、そっか。そうだったんだ。
私たぶん、小学生の頃から飛雄のことが好き。
日向を見てぼけーっとしている親友の横で、同じく飛雄を見てぼけーっとなる私。無意識に、「あー、好き……」だなんてつぶやいてしまう。くそぉ、まんまと惚れてしまった。というか、好きだと気づいてしまった。認めてしまった。くっそぉ! 好きなんじゃん!
陸部を抑えて一位を取ったのは、まさかの男子バレー部。トップバッターの日向もアンカーの飛雄も、みんなにもみくちゃにされている。そんな彼らを見つめていると、なぜだか飛雄と目が合った。気がした。気のせいだと思ったのは一瞬で、数秒ののちに気のせいじゃないと確信に変わる。なぜならば、飛雄がずんずんとこちらに向かって歩いてきたからだ。
「おい」
「はっ!? 私!?」
「なんで見てんだよ」
「はあ!? 見ちゃいけないの!?」
「そんな可愛い顔で見てたら目立つだろ!」
「はぁあ!? 何言ってんの!? バッカじゃないの!?」
キュウウウウン。
えっ、何これ何これ!? なんで私だけにそんなこと言うの!? ていうかみんなに見られてるし! 放送部の人、『おやおや? 影山くんも公開告白でしょうか!?』なんて言い始めたし!
「そのつもりだけど何か?」
と真面目に返す飛雄が眩しい。っていうか今、何て言った!?
キャー! とか、ギャー! とか様々な悲鳴が飛び交う。黙ったままの私に向かって、飛雄は「っつーことだ」と言って去っていった。ぽかんと口を開くことしか出来ない。
今の何なのぉおおおぉ!?
初恋が叶ったのは、自覚から数分後の話だった。
部活対抗リレーで目立ちすぎてる日向翔陽にまんまと惚れる
太陽みたいな人だと思った。
第一印象はそんな感じ。誰にでも気さくに話しかけてくれるし、明るいし、フレンドリーだし、友達多いし。入学後、私が日向を気にするようになるまで、そんなに時間はかからなかった。好きなのか、と問われたら分からない。ただの憧れなのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ただ日向の存在は、私の心を温かくさせた。
しかし。そんな日々に終止符を打つ時が来た。春の高校バレーだ。まさかの日向が所属している男子バレー部が春高に出場して、彼がスタメンとしてテレビ画面にデカデカと映ってしまったのだ。すると、何が起こるだろう。そう、日向をはじめとする男子バレー部員がモテはじめてしまったのだ。私だけの日向が、みんなの日向になってしまった。
「だから諦めたの? 下らん理由」
体育祭の終盤、親友はハチマキを巻き直しながらそう言った。蔑んだような目で見てくる彼女に、「元々そんなんじゃないって」と返す。
「いいじゃん。日向とナマエ、お似合いだと思うけど」
「だから、好きとかそんなんじゃないんだって! お似合いとか言われても向こうが迷惑だから」
「まあ、日向モテるよね」
「応援してたアイドルが人気出たらなんか寂しくなるじゃん? それと同じ」
「飛雄よりよっぽどいいと思うけど」
「そういうアンタは実は影山くんなんでしょ〜? 小学校から一緒だっけ? 寂しいんじゃなーい?」
なんて親友をからかって、話題を影山くんに移す。けれども親友は頬を赤らめて、「ほら、日向走るよ!」なんて話題を戻されてしまった。
体育祭のラストを飾る部活対抗リレー。男子バレー部のトップバッターは瞬発力のある日向がつとめるようだった。隣に陸上部やサッカー部、野球部なんかが並ぶ中、ウォーミングアップしている彼の姿が目に入る。
「日向せんぱぁい♡ 頑張って〜♡」
なーんて甘い声援がどこからか飛んできて、日向コールが巻き起こった。男子まで日向を応援しているし、春高稲荷崎戦の応援かよ、なんて思ってしまう。くそぉ、陸部に勝てるわけないのに。ばっかじゃないの。ちょっと春高で目立ったくらいでみんなしてちやほやしてさ。ばーか、負けちまえ。
なんて、思っていたひねくれものの私の耳に、ピストル音が届く。パァン、と音が鳴った瞬間、舞い上がる土埃と共に生徒たちが一斉に駆け出した。
え、日向はっや!
バレーをしている時のような、真剣な表情で走る日向。一方、観客の中に紛れているただのモブの私。そんな差のある状況なのに、なぜか一瞬目が合ったような気がした。
やべぇ、カッコイイ。
ぼけーっとした顔をしていたのだろうか、隣にいる親友に「惚れた?」なんて聞かれてしまう始末。そんなんじゃないって、なんて言葉は出てこずに、「うん」とだけ答えていた。
何これ好き! 尊い!
「ほら好きなんじゃん〜」なんてけらけら笑っていた親友は、アンカーの影山くんを見た途端黙ってしまったのだけど。
陸部を抑えて一位を取ったのは、まさかの男子バレー部。トップバッターの日向もアンカーの影山くんも、みんなにもみくちゃにされている。そんな彼らを見つめていると、また日向と目が合った。気がした。気のせいだと思ったのは一瞬で、数秒ののちに気のせいじゃないと確信に変わる。なぜならば、日向がずんずんとこちらに向かって歩いてきたからだ。
「名前! 見ててくれた!?」
「え!? 私!? 私!?」
「走ってる時見えた!」
「う、うん!?」
「名前が見てたから頑張れた! ありがとな!」
キュウウウウン。
えっ、何これ何これ!? なんで私だけにそんなこと言うの!? ていうかみんなに見られてるし! 放送部の人、『おやおや? 日向くん公開告白でしょうか!?』なんて言い始めたし!
「あ! そういうのはふたりきりの時にするんで!」と真面目に返す日向が眩しい。キャー! とか、ギャー! とか様々な悲鳴が飛び交う。黙ったままの私に向かって、日向は「ってことで、あとでな!」と言って去っていった。ぽかんと口を開くことしか出来ない。
あとで、何を言われるのぉおおおぉ!?
自覚したばかりの恋が叶うのは、数十分後の話。
彼氏の研磨が今日は私の推しをガチボコにしない
「ギエェ……! ギエェエェ……! ふぎゃァァアアアアアア……!」
スマホの画面を見た時、思わず声が溢れていた。語彙力はどこかに消え、悲鳴にも似た音がその場を支配する。隣に座っていた研磨は、私を見るなり少し引いたような表情をして、はぁと溜息をついた。この彼氏はどうやら、私がなぜ叫んでいるのかを察しているらしい。
「どうしたのそんなに叫んで、とか聞かないのー? 研磨くーん?」
「このやりとり何回目……。しかも段々ひどくなってる」
「だってさ! ついに翼で回せるガチャに黒いチームが登場したんだよ!? しかも! ひとりずつ登場させるとか一体何なの!? 焦らされてんの!?」
そう、ついに私の推しである黒いチームが、無課金でも回せるガチャに登場したのだ。この日をどれだけ待っていたことか。これまでだと、ピックアップガチャには二人ずつ登場するのが当たり前だった。しかし今回は、まさかの一人ずつの登場で焦らされまくっている。
「つまり、こいつに翼使うか他のキャラに使うか迷ってるんでしょ」
「イェス!!!! ってかこいつとか言わないで! くん付けで呼んで! くん付けで!」
ぷんすかと頬を膨らませながら、スマホをタップする。本日実装されたばかりの双子の片割れキャラ。そのスキル一覧を眺めてニヤけていると、私の頬に研磨の金髪がちくりと刺さった。
「ふーん、双子速攻使えるんだ。ゲームとしてはほしいキャラだね。二人揃えないと意味ないけど」
「そうなの! 双子両方ほしいけどこの翼の数で来るのか分かんなくて! それだけじゃないんだよ!? あとふたりピックアップされるキャラがいるの!」
「知ってる」
「は〜兄弟もほしいし、こっちのブロック得意なキャラもほしいけど、私の最推しは主将なんだよね〜♡ カッコイイ♡」
そこまで早口で喋ったところで、研磨から注がれる視線がいつもと違うことに気がついた。しまった、これまたガチモード。主将をゲットしている課金勢のチームを探し出して、ガチボコに負かすに違いない。
そう思ったものの、研磨は手元にあったスマホを放り投げて、ベッドに突っ伏せてしまった。先程まで覗かれていた私のスマホ画面も、暗くなって消えていく。ベッドにもたれかかりながら彼の方を見るけれど、こちらを見ようともしない。
ンンン!? 何なの!? 拗ねた!?
「今日はゲームやんないの?」
「やめた」
「えええ!? 黒いチームに嫉妬してたんじゃないの!?」
「してるけど」
「じゃあ、この前みたいにまたガチボコにしてみせてよ!」
私の大声でを聞いて、研磨がゆるく寝返りを打った。ぱちっと目が合う。さっきと同じ本気モードの瞳のままで、彼は私をじっと見つめた。
「……俺はちゃんとやれないし、出来れば面倒くさいことはやりたくない」
「ハイ!?」
「全然違うけど、いいの?」
最推しは主将なんだよね〜♡ なんて、軽々しく言ったことを思い出し、全身がかあっと熱くなる。ちゃんとやんねんが信条の主将キャラと、自分のことを比べている!?
何それ! 可愛すぎ! 好き!!!!
「名前はおれでいいのか聞いてるんだけど」
「ひゃい、研磨くんがいいです……」
「ん、じゃ今日はそれやめておれと遊ぼ」
「ま、ひゃあ……!」
研磨がいいと答えたが最後、腕を引っ張られてそのまま彼の上に馬乗りになってしまう。遊ぼって何!? 何するつもりなの!? なんてテンパっているうちに重なった唇。服の中に侵入してきた手に、指先に、背中をつーっと撫でられる。
「んっ、まって、」
「可愛い声出せるじゃん」
「〜っ!」
やられた。本当もう、クールに見えてすぐ妬くし、拗ねるし、私のことをこんなふうに甘やかしてくる。キャラを小出ししてくるゲームよりも、私の気持ちを揺さぶるそんな存在。
「ね、先にスキルガチャ回させて?」
「は?」
「今日主将がピックアップされてる日なんだ♡ ね?」
「絶っ対やだ」
主将、と口にした途端にまた研磨の瞳は本気モードと化していて。あー、煽ってしまったな、なんて思った。でもね、これからすることはお願いだからガチモード消去して挑んでほしい。未経験なので。初心者なので。
どうか優しくしておくれ。
ハイドリ〜!
こんにちは! お久しぶりです! ブログもサイトも亀更新ですみません!
今年の夏は遊びすぎました。沖縄行ったし帰省もしたし夏フェスに行ったしコラボカフェにも行きました。
夏フェスの話は書けたので、沖縄旅行の話と帰省の話とコラボカフェの話も書きたかったです。夏はまだ終わってねぇよって? そうですね! 時間があれば書きたいです〜!
Twitter改めXの方では夏と角名くんの企画に参加しました! 是非覗いてみて下さい〜!
角名くんと言えば稲荷崎ですが、他名義で稲荷崎オンリーにも参加してきました。ザキ2年メンツで夏フェスる話を書きましたので、支部で探してみて下さい〜!一応Twitterにリンク貼ってます!not夢なのでこちらにはあげません!
稲荷崎と言えば! ハイドリ実装されましたね!
私貯めてた翼を、浴衣研磨に貢いで3000しか残ってなかったんですけど、
まさかのザキ実装の当日にぼっくんのガチャ11時までやん!って無料ガチャ回そうとして、間違えてぼっくんピックアップに3000翼使っちゃいました……!なんてこった!
今あわてて翼集めています!
ソシャゲ全然やらない民なのにどっぷりハマってますね! 元々ソシャゲしない人の方が続いてるイメージなので、ハイドリは初心者向けなのかも!?
皆さん是非動いてるザキメンを見てみて下さいね! 烏野も音駒も大好きだけど稲荷崎好きすぎる!!!!と実感しました〜!
そんな私、来年のジュンブライベントで黒尾さんと研磨くんの幼馴染夢本を発行しようと思ってます!!!!こんだけザキの話して音駒か〜い!
でも!でも!北さんの本も作りたいです〜! 時間次第ですが!!!!
秋は私生活がいそがしいのでまた亀になるかもですが、ちょこちょこ更新していきたいです!!!!いつもありがとうございます〜!
銀島結が好きすぎる
高校生ナンバーワンセッターの侑、その侑の補完が出来ちゃう治、体幹が凄い角名。スポーツが強い上にお顔が整っている三人は、凄くモテるし目立っている。もはやアイドル並みだ。異常である。
分かる。分かるよ。でもね、その影に潜む銀島結という存在の魅力に、誰も気がついていない……わけがないでしょう!
銀ちゃんはモテる。うちの高校では、三人をおさえてナンバーワンのモテ男だと思う。結婚するなら銀島くん♡ とかいうガチ勢がたくさんいることを、きっと本人は知らないのだろう。今彼は私の隣で、ズーンと肩を落としているのだから。
「なぁ、マネ。俺って目立たへんのかなぁ……」
「銀ちゃんは目立ちたいとか思うタイプじゃないでしょ?」
「せやな。でもな、レギュラーやし背番号一番若いのに、俺だけ実装されてへん……。さすがに凹むわ」
言っちゃった! 自分で言っちゃったよ!
そう、私たち稲荷崎高校のメンツが、バレーボールのゲームに実装されたのだ。けれどもそこに、銀島結の名はなかった。理石ですらいたのに。
「ま、せやけど、侑も治も角名もかっこええなぁ。めでたいなぁ!」
「理石に負けたとか思わないの?」
「理石はええプレイヤーやで!?」
「グヌヌ、鼻血出る! そういうところですよ! はぁひとし尊い!!!!」
「ん? 何か言うたか?」
「ううん気にしないで!?」
そういうところ! そういうところなんですよ! 私だって侑たちをディスる気は全く無いし、まぁあいつらもイケメンではあるよな……、強いし……、とかは思うけれども! 銀島結の魅力は彼らと違うところにあるんですよ! 侑とか、ひとりだけ実装されてなかったら絶対ハァア!? なんやこのクソ運営が! とか言ってるだろうし。(何度も言うがファンが怖いのでディスっていないことは伝えておきたい)(ファンが怖いので)(怖すぎるので)
銀ちゃんは優しいし! 熱いとこあるし! 試合してる時カッコイイし! 言う時ちゃんと言うし! 最高! 好き!
そう、マネージャーであるこの私も銀島ガチ勢だ。かなり惚れ込んでいるし、正直結婚してくれバージン貰ってくれ! くらいには思っている。けれどもそれを悟られるわけにはいかないのだ。私と銀ちゃんがくっついたらファンたちが悲しむわけだから。隠れファンが多いのが銀島結の魅力なわけだし。あ〜! でもひとりじめしたい! 私のものになって銀島結〜!
「マネは、俺のこと目立たへんって思うか?」
「そんなことない! 私にとって銀ちゃんは一等星だよ!」
「ありがとうな! マネは優しいなぁ」
トゥンク。優しいのはあなたです! はぁもうファンが悲しむとかどうでもいいわ! あなたが好きです私と結婚して下さい!
「一等星言うのは、マネの本音やんな?」
「うん? そだけど?」
「それだけで俺頑張れそやわ。ありがとうな!」
「私でいいならいつでも言うよ!? 銀ちゃん推しだし!」
「んん!? マネ、俺推しなん!?」
私が銀ちゃん推しだと告げると、彼は驚いた顔をして、ぐぐっと詰め寄ってきた。うお、近い。近くで見ると本当カッコイイし、筋肉凄いし、これでなぜ実装されないんだ運営様よ!? と言いたくなる。彼が実装されていないのは、後から登場させて目立たせるためなのではと考えてしまうくらいにカッコイイとしか言いようがない。はぁ、これは私もヲタクモード止められないわ。
「気づいてないみたいだけど銀ちゃんモテるんだよ!? 銀ちゃん推しが一番多いと思う! カッコイイもん!」
「他の子もありがたいけど、マネが俺推しかどうかが大事やねんけど」
「えっと!? ハイ私は銀島結を推していますが!?」
「それはどういう意味で?」
「ひぇ!? ど、ど、どういう意味とは!?」
「俺マネのこと好きやねんけど。同じ意味かどうか聞きたいねん」
ヒィ!? ヒイィイイ!?
俺マネのこと好きやねんけど!?
銀島結は告白する時絶対熱烈ストレートだとは思っていましたけど!? 解釈一致すぎるんですけど!? えええ!? 私今、告白されているのですか!?
「で、どーなん?」
「お、お、同じいみです……」
「ほな、俺と付き合うてくれるん?」
「ハイ結婚して下さい……」
「ぶっ飛び過ぎやけど、俺もそのつもりやからな!?」
運営様、正解すぎだわ。彼がこれ以上人気になってしまったら困る。こんなに素敵でストレートに愛を伝えてくれる人が、もっとモテたら大変すぎる。ありがとうございます、運営様!
天を仰ぐ私を見て、銀ちゃんは「? マネは面白いなぁ」なんてこぼすのだった。これは、私が将来の相手をゲットした日のお話。
彼氏の研磨がゲームで私の推しをガチボコにする
「ギャー! ギャ、ギャア! ギァアァア……!」
スマホの画面を見た時、思わず声が溢れていた。語彙力はどこかに消え、悲鳴にも似た音がその場を支配する。隣に座っていた研磨は、私を見るなり少し引いたような表情をして、はぁと溜息をついた。この幼馴染……、改め彼氏は、どうやら私がなぜ叫んでいるのかを察しているらしい。
「どうしたのそんなに叫んで、とか聞かないのー? 研磨くーん?」
「ひどい悲鳴……」
「だってさ! 黒いチームが実装されたんだよ!? 前情報段階では私も小さくて可愛いキャラクターみたいな声に抑えていたけどさ! 実際来たら変な声出るでしょ!?」
「彼氏の前で出す声じゃないでしょ」
「彼……っ! やだもう、ハッキリ言わないでよ!」
ずっと幼馴染だった関係が変わったのは数日前。研磨の方から告白(だよね? あれは)をされ、私がそれに応えた。
幼馴染とはいえ、彼氏とふたりきりだなんてマズイのでは!? と今更察してしまい、話題をゲームに戻す。
「見てこれ! イントロ変わるとか運営も気合い入りすぎっていうか、分かってるよね!」
「まさか課金」
「してないしてない! したいよ!? ひと足先に推し様が手に入るんだもん! でもさ、高校生にこの金額は高すぎるわけだよ!」
「だから頑張ってストーリーモード進めてるんだ」
「そ! 少しでも翼増やさなきゃ! でもスキルガチャは回せたからいっぱい回したんだ♡ 見て! ピンクのトス!」
トス、と言った瞬間、しまったと思った。研磨の瞳がぎろりと動いて、表情が完全本気モードと化している。彼は置いていたスマホをタップして、私と同じゲームアプリを開いた。オートマッチでレベル上げしていたキャラにさらに牛乳を注ぎ込み、レベルを爆上げさせている。さらに石まで使って、某キャラを五凸させてしまった。
「何」
「イエ、どーぞ続けて下さい」
ヒエエエェ。怖い! 怖いよぉ! 彼氏が本気モードだよ! でもこれも私の推しに対する嫉妬心が理由だと思うと、愛おしくてしょうがなくなる。キュン。
研磨の指先を見つめていると、他のプレイヤーと対戦出来るマッチのボタンをタップしていた。わぁお、既に黒いチームをゲットしている猛者がいる。研磨はそのチームを対戦相手に選ぶと、ガチモードで対戦を始めた。
「!? っていうか研磨のこの順位何!? そんな進めてないように見えたのに!?」
「うるさい黙ってて」
「ギャー! 推しと推しがコートにいる! やばい! やばい! カッコイイ! ギャァァア!!!!」
なんて叫んでしまったが最後、研磨はありとあらゆるピンクのスキルを駆使して、私の推したちにボールを当てていった。時間にして何秒だっただろうか。彼の画面には『勝利』の文字。私の推したちは、ガチボコにされてしまっている。
「ギャー! 何すんの!」
「言ったよね? 嫉妬してるって」
「……聞いたけど! 実際見るとこう! 推したちがボッコボコにされてるのを見ると、こう! グヌヌ!」
「ま、名前のこういう顔も見たかったんだけど」
「何それ! ドSですか!?」
「可愛すぎるでしょって言ってんの」
ンンンン!? ンンンン!?
はて、幼馴染改め彼氏は、こんな甘い台詞を吐くような人だったでしょうか!? 研磨の方を見ていられなくて、うつむいて顔を隠す。
「……ね、鉄朗も呼んで三人でゲームしよ?」
「やだ」
「なんで! 三人の方が楽しいじゃん!」
「ね、こっち向いて」
「むり!」
突然甘くなるこの幼馴染……、改め彼氏についていけなくて、私は顔を隠し続けた。今すごい変な顔をしているし、きっと顔も真っ赤だ。それに、今顔を上げてはいけないような気がした。
「顔上げないとちゅー出来ない」
「ストレートに言わないで!」
「顔上げられるじゃん」
「だって研磨が……、!」
言い訳めいた私の言葉は、彼の唇に飲み込まれていった。推しのチームが実装された興奮だとか喜びだとかが、一瞬にして上書きされてしまう。ゲームオーバー、私の負け。本当もう、この人。
上級者すぎる。
幼馴染の研磨がゲームで私の推しをガチボコにする
「ワ! ワァ! ワァア……!」
スマホの画面を見た時、思わず声が溢れていた。語彙力はどこかに消え、悲鳴にも似た音がその場を支配する。隣に座っていた研磨は、私を見るなり少し引いたような表情をして、はぁと溜息をついた。この幼馴染は、どうやら私がなぜ叫んでいるのかを察しているらしい。
「どうしたのそんなに叫んで、とか聞かないのー? 研磨くーん?」
「予想ついたし」
「だって! だってだって! あの黒い高校が実装されるんだよ!? 私の推し!」
「知ってる」
「貯めてた翼を使う時が来たよ〜!」
「ふーん」
「私がどれだけこの時を待ってたか知ってるでしょ!? もーいい、鉄朗に聞いてもらうから」
ぷんすかと拗ねた態度をみせると、研磨は握っていたスマホを開いて、私と同じゲームアプリをタップした。え、信じられない。無音にしてるの!? 推したちの声が聞けるっていうのに!? ……じゃなくって!
「意外! 研磨こういう系のゲームしないと思ってた」
「隣でギャースカ言われたら気にはなるでしょ」
「あんま育ててないんだね? 相手に黒いチーム来たらボッコボコにされちゃうよ〜?」
普段ゲームでは研磨に勝てないけれど、彼はこの手のゲームにあまり興味がないようで、そんなに進めていないようにみえる。せいぜいデイリーミッションこなしてる程度じゃん。
「これ、対戦出来るのなら、勝っちゃうんじゃないかな私〜! 黒いチーム集めて強くするんだ♡」
ぷつり。
何かが切れたような音がして、研磨の指が高速で動き始める。え、何これ。そう思って顔を覗き込むと、本気モードの彼がいた。指先では、育成に使われる牛乳が全力で注がれている。
「え、何この牛乳の量! そんなに貯めてたの!?」
「まあ、この時を待っていたわけだし」
「へ? どういうこと?」
「相手に黒いチーム来たらぶっ潰すってこと」
「!? なんで!?」
なんでか分かんないの? そう言わんばかりの表情をして、彼はにやりと笑った。
やばい。本当に本気モードじゃんこれ。なんで!? 黒いチームになんで敵意剥き出しなの!? なんでいきなり本気になってんの!?
「名前の推しには勝ちたいじゃん」
そう言って笑う研磨の瞳は、真剣そのものだ。久々にこんな研磨を見た気がする。それでもどうして私の推しに勝ちたいのか分からずに、首をかしげた。
「はー……、鈍感すぎでしょ」
「何が!?」
「おれがこんなに勝ちにこだわるの、初めてだから」
「うん!? そうだね!?」
「妬いてんの、黒いチームに」
は!?
はぁあぁあ!?
妬いている。その言葉を理解した瞬間、顔にボッと火がついた。
え、え!? そういうこと……だよね!? いつから!?
「……むり、こっち見ないで」
「真っ赤」
「ギャー、見ないでえぇえ!」
「無理、可愛すぎでしょ」
なんて、顔を覆っている腕を跳ねのけられてしまう。こんなの、本当に不意打ちすぎる。
先程までの興奮はどこかに吹き飛んでしまった。きっと今夜は、この熱にうなされるのだろう。