体育祭で保健係の東峰旭に担がれてまんまと惚れる

 運動音痴に体育祭は必要ない。どうか雨でも降って中止になってくれ!
 そう願っていたものの、超絶晴れ女の私に雨乞いは無理だったようで、当日は雲ひとつない快晴だった。気持ちのいい秋晴れですね、なんてレベルじゃない。夏でしょ、これ。入場門の向こうには、真っ青な空が広がっている。
 三十五度のとろけそうな日、メイン競技のリレーと騎馬戦の間に挟まれた時間に、私の出場する障害物競走が始まった。運動の出来るパリピどもは、リレーか騎馬戦どちらかに出場する。つまり、余りものの運動音痴どもがこぞって出場するのがこの障害物競走というわけだ。
 そこで私は閃いた。これ、ワンチャン私が一位とかいう奇跡が起こるんじゃない!? 人生で初めて体育で目立つとかいう奇跡が起こるんじゃない!?
 そう気づいてソワソワしはじめた私に話しかけてきたのは、同じクラスの東峰だった。ちょっと頼りないけど、いいやつなんだなぁ、こいつ。
「苗字、次出んの?」
「東峰じゃん。うん。東峰は? 騎馬戦? リレーいなかったよね」
「あー、俺は保健係だから待機」
「そっか、頑張って!」
「苗字も頑張って」
 保健係かぁ。バレー部エースも高校生なのね。駆け足で入場する私に、東峰がゆるく手を振ってくる。私もゆるっと手を振り返して、頭を戦闘モードに切り替えた。
 エース様が応援してくれたのだから、これは奇跡起こるんじゃない!?
 そんな感じで調子に乗ってしまった私は、張り切りすぎてしまったのだ。
 順番はすぐに回ってきた。パァンと鳴るピストルの音に合わせて一気に駆け出す。走り方が変だと笑われた過去を消し去るかのように、私は駆け抜けた。網をくぐり抜け、平均台を渡り、フラフープを回す。ラストは小麦粉の中に埋まっている飴玉を、口だけで拾い上げて走るのみ!
 やべぇ走り方の女がいる、と集まってきたギャラリーに爆笑されている気がするけれど、気にしない。顔に小麦粉が大量にひっついた気がするけどそれも気にしない。飴玉を拾い上げ、私はゴールに向かって猛ダッシュした。
 よし! 私が一位だ! 後ろを振り返るが、二位の人はまだ飴にたどり着いていない。このままゴールテープを切るだけだ。ゴールまであと五メートル、四、三、二、一……。
 ……え、なんかクラクラするかも。
 私の足がもつれたのはその時だった。途端に傾いていく体。宙を白い粉が飛び、顔面から地面に着地する。横を向いた胴体により切られたゴールテープが、ひらひらと靡いたのが一瞬だけ見えた。痛みを感じた顔面を拭うと、赤く染まった小麦粉が手のひらにひっついた。
「キャー! 誰か! 保健係!」
 誰かが叫ぶ声に包まれながら、意識が朦朧としていく。どこかのモブ男が、「ダッサ」と笑うのが聞こえた。うえぇぇ、消えたい……!
「苗字! 大丈夫か!?」
 保健係! と呼ぶ声が聞こえてからたったの数秒。颯爽と現れたのは、あの頼りないエース様、東峰旭だった。「だいじょばない……」と伝えた途端に浮き上がる体。ふわりと浮遊感を覚えて目を見開くと、まさかの東峰にお姫様抱っこをされているではないか!? え、なにこれ、頼もしすぎる!
「ほら、飴吐き出して」
「ひえぇん」
「救護テントまで行くから、掴まってて」
「ひゃい」
「……それから、苗字を笑ったやつら、お前らの方がダサいよ!」
 最後にそう叫んで、お姫様抱っこで救護テントまで走る東峰。きゃー、と女子たちの悲鳴がきこえる。なんだこれ!? なんだこれえええぇ!? なんでパリピ体育祭で私が主人公みたいになってるの!?
 救護テントに着いた途端、保健医の先生と東峰とでてきぱきと処置をしてくれた。あたたかいタオルで、東峰が私の小麦粉だらけの顔を拭ってくれる。
「苗字、鼻血止まった?」
「うん、ありがと……」
「よかった。苗字の可愛い顔が血だらけになって、本当にビックリしたから」
 可愛い!? 今、可愛いって言いましたか!? この小麦粉鼻血女が!?
「競技中の苗字、すごいカッコよかったよ」
「ひぇ!? そんな! ただの運動音痴だから!」
「あー、ごめん。言い方間違えた。……すっごい可愛かった」
 ンンンン!?
 頼りないけどいいやつ、なんて思っててごめん! 頼りないけどいいやつじゃなかったわ。頼れるスーパーヒーローだったわ。本当、こんなことされたらもう。
「誰にでもこんなこと言わないから」
 ンンンン! もう!
 ……惚れたわ。

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