「ギャー! ギャ、ギャア! ギァアァア……!」
スマホの画面を見た時、思わず声が溢れていた。語彙力はどこかに消え、悲鳴にも似た音がその場を支配する。隣に座っていた研磨は、私を見るなり少し引いたような表情をして、はぁと溜息をついた。この幼馴染……、改め彼氏は、どうやら私がなぜ叫んでいるのかを察しているらしい。
「どうしたのそんなに叫んで、とか聞かないのー? 研磨くーん?」
「ひどい悲鳴……」
「だってさ! 黒いチームが実装されたんだよ!? 前情報段階では私も小さくて可愛いキャラクターみたいな声に抑えていたけどさ! 実際来たら変な声出るでしょ!?」
「彼氏の前で出す声じゃないでしょ」
「彼……っ! やだもう、ハッキリ言わないでよ!」
ずっと幼馴染だった関係が変わったのは数日前。研磨の方から告白(だよね? あれは)をされ、私がそれに応えた。
幼馴染とはいえ、彼氏とふたりきりだなんてマズイのでは!? と今更察してしまい、話題をゲームに戻す。
「見てこれ! イントロ変わるとか運営も気合い入りすぎっていうか、分かってるよね!」
「まさか課金」
「してないしてない! したいよ!? ひと足先に推し様が手に入るんだもん! でもさ、高校生にこの金額は高すぎるわけだよ!」
「だから頑張ってストーリーモード進めてるんだ」
「そ! 少しでも翼増やさなきゃ! でもスキルガチャは回せたからいっぱい回したんだ♡ 見て! ピンクのトス!」
トス、と言った瞬間、しまったと思った。研磨の瞳がぎろりと動いて、表情が完全本気モードと化している。彼は置いていたスマホをタップして、私と同じゲームアプリを開いた。オートマッチでレベル上げしていたキャラにさらに牛乳を注ぎ込み、レベルを爆上げさせている。さらに石まで使って、某キャラを五凸させてしまった。
「何」
「イエ、どーぞ続けて下さい」
ヒエエエェ。怖い! 怖いよぉ! 彼氏が本気モードだよ! でもこれも私の推しに対する嫉妬心が理由だと思うと、愛おしくてしょうがなくなる。キュン。
研磨の指先を見つめていると、他のプレイヤーと対戦出来るマッチのボタンをタップしていた。わぁお、既に黒いチームをゲットしている猛者がいる。研磨はそのチームを対戦相手に選ぶと、ガチモードで対戦を始めた。
「!? っていうか研磨のこの順位何!? そんな進めてないように見えたのに!?」
「うるさい黙ってて」
「ギャー! 推しと推しがコートにいる! やばい! やばい! カッコイイ! ギャァァア!!!!」
なんて叫んでしまったが最後、研磨はありとあらゆるピンクのスキルを駆使して、私の推したちにボールを当てていった。時間にして何秒だっただろうか。彼の画面には『勝利』の文字。私の推したちは、ガチボコにされてしまっている。
「ギャー! 何すんの!」
「言ったよね? 嫉妬してるって」
「……聞いたけど! 実際見るとこう! 推したちがボッコボコにされてるのを見ると、こう! グヌヌ!」
「ま、名前のこういう顔も見たかったんだけど」
「何それ! ドSですか!?」
「可愛すぎるでしょって言ってんの」
ンンンン!? ンンンン!?
はて、幼馴染改め彼氏は、こんな甘い台詞を吐くような人だったでしょうか!? 研磨の方を見ていられなくて、うつむいて顔を隠す。
「……ね、鉄朗も呼んで三人でゲームしよ?」
「やだ」
「なんで! 三人の方が楽しいじゃん!」
「ね、こっち向いて」
「むり!」
突然甘くなるこの幼馴染……、改め彼氏についていけなくて、私は顔を隠し続けた。今すごい変な顔をしているし、きっと顔も真っ赤だ。それに、今顔を上げてはいけないような気がした。
「顔上げないとちゅー出来ない」
「ストレートに言わないで!」
「顔上げられるじゃん」
「だって研磨が……、!」
言い訳めいた私の言葉は、彼の唇に飲み込まれていった。推しのチームが実装された興奮だとか喜びだとかが、一瞬にして上書きされてしまう。ゲームオーバー、私の負け。本当もう、この人。
上級者すぎる。
01
2023.9