彼氏の研磨が今日は私の推しをガチボコにしない

「ギエェ……! ギエェエェ……! ふぎゃァァアアアアアア……!」
 スマホの画面を見た時、思わず声が溢れていた。語彙力はどこかに消え、悲鳴にも似た音がその場を支配する。隣に座っていた研磨は、私を見るなり少し引いたような表情をして、はぁと溜息をついた。この彼氏はどうやら、私がなぜ叫んでいるのかを察しているらしい。
「どうしたのそんなに叫んで、とか聞かないのー?  研磨くーん?」
「このやりとり何回目……。しかも段々ひどくなってる」
「だってさ! ついに翼で回せるガチャに黒いチームが登場したんだよ!? しかも! ひとりずつ登場させるとか一体何なの!? 焦らされてんの!?」
 そう、ついに私の推しである黒いチームが、無課金でも回せるガチャに登場したのだ。この日をどれだけ待っていたことか。これまでだと、ピックアップガチャには二人ずつ登場するのが当たり前だった。しかし今回は、まさかの一人ずつの登場で焦らされまくっている。
「つまり、こいつに翼使うか他のキャラに使うか迷ってるんでしょ」
「イェス!!!! ってかこいつとか言わないで! くん付けで呼んで! くん付けで!」
 ぷんすかと頬を膨らませながら、スマホをタップする。本日実装されたばかりの双子の片割れキャラ。そのスキル一覧を眺めてニヤけていると、私の頬に研磨の金髪がちくりと刺さった。
「ふーん、双子速攻使えるんだ。ゲームとしてはほしいキャラだね。二人揃えないと意味ないけど」
「そうなの! 双子両方ほしいけどこの翼の数で来るのか分かんなくて! それだけじゃないんだよ!? あとふたりピックアップされるキャラがいるの!」
「知ってる」
「は〜兄弟もほしいし、こっちのブロック得意なキャラもほしいけど、私の最推しは主将なんだよね〜♡ カッコイイ♡」
 そこまで早口で喋ったところで、研磨から注がれる視線がいつもと違うことに気がついた。しまった、これまたガチモード。主将をゲットしている課金勢のチームを探し出して、ガチボコに負かすに違いない。
 そう思ったものの、研磨は手元にあったスマホを放り投げて、ベッドに突っ伏せてしまった。先程まで覗かれていた私のスマホ画面も、暗くなって消えていく。ベッドにもたれかかりながら彼の方を見るけれど、こちらを見ようともしない。
 ンンン!? 何なの!? 拗ねた!?
「今日はゲームやんないの?」
「やめた」
「えええ!? 黒いチームに嫉妬してたんじゃないの!?」
「してるけど」
「じゃあ、この前みたいにまたガチボコにしてみせてよ!」
 私の大声でを聞いて、研磨がゆるく寝返りを打った。ぱちっと目が合う。さっきと同じ本気モードの瞳のままで、彼は私をじっと見つめた。
「……俺はちゃんとやれないし、出来れば面倒くさいことはやりたくない」
「ハイ!?」
「全然違うけど、いいの?」
 最推しは主将なんだよね〜♡ なんて、軽々しく言ったことを思い出し、全身がかあっと熱くなる。ちゃんとやんねんが信条の主将キャラと、自分のことを比べている!?
 何それ! 可愛すぎ! 好き!!!!
「名前はおれでいいのか聞いてるんだけど」
「ひゃい、研磨くんがいいです……」
「ん、じゃ今日はそれやめておれと遊ぼ」
「ま、ひゃあ……!」
 研磨がいいと答えたが最後、腕を引っ張られてそのまま彼の上に馬乗りになってしまう。遊ぼって何!? 何するつもりなの!? なんてテンパっているうちに重なった唇。服の中に侵入してきた手に、指先に、背中をつーっと撫でられる。
「んっ、まって、」
「可愛い声出せるじゃん」
「〜っ!」
 やられた。本当もう、クールに見えてすぐ妬くし、拗ねるし、私のことをこんなふうに甘やかしてくる。キャラを小出ししてくるゲームよりも、私の気持ちを揺さぶるそんな存在。
「ね、先にスキルガチャ回させて?」
「は?」
「今日主将がピックアップされてる日なんだ♡ ね?」
「絶っ対やだ」
 主将、と口にした途端にまた研磨の瞳は本気モードと化していて。あー、煽ってしまったな、なんて思った。でもね、これからすることはお願いだからガチモード消去して挑んでほしい。未経験なので。初心者なので。
 どうか優しくしておくれ。

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