「ワ! ワァ! ワァア……!」
スマホの画面を見た時、思わず声が溢れていた。語彙力はどこかに消え、悲鳴にも似た音がその場を支配する。隣に座っていた研磨は、私を見るなり少し引いたような表情をして、はぁと溜息をついた。この幼馴染は、どうやら私がなぜ叫んでいるのかを察しているらしい。
「どうしたのそんなに叫んで、とか聞かないのー? 研磨くーん?」
「予想ついたし」
「だって! だってだって! あの黒い高校が実装されるんだよ!? 私の推し!」
「知ってる」
「貯めてた翼を使う時が来たよ〜!」
「ふーん」
「私がどれだけこの時を待ってたか知ってるでしょ!? もーいい、鉄朗に聞いてもらうから」
ぷんすかと拗ねた態度をみせると、研磨は握っていたスマホを開いて、私と同じゲームアプリをタップした。え、信じられない。無音にしてるの!? 推したちの声が聞けるっていうのに!? ……じゃなくって!
「意外! 研磨こういう系のゲームしないと思ってた」
「隣でギャースカ言われたら気にはなるでしょ」
「あんま育ててないんだね? 相手に黒いチーム来たらボッコボコにされちゃうよ〜?」
普段ゲームでは研磨に勝てないけれど、彼はこの手のゲームにあまり興味がないようで、そんなに進めていないようにみえる。せいぜいデイリーミッションこなしてる程度じゃん。
「これ、対戦出来るのなら、勝っちゃうんじゃないかな私〜! 黒いチーム集めて強くするんだ♡」
ぷつり。
何かが切れたような音がして、研磨の指が高速で動き始める。え、何これ。そう思って顔を覗き込むと、本気モードの彼がいた。指先では、育成に使われる牛乳が全力で注がれている。
「え、何この牛乳の量! そんなに貯めてたの!?」
「まあ、この時を待っていたわけだし」
「へ? どういうこと?」
「相手に黒いチーム来たらぶっ潰すってこと」
「!? なんで!?」
なんでか分かんないの? そう言わんばかりの表情をして、彼はにやりと笑った。
やばい。本当に本気モードじゃんこれ。なんで!? 黒いチームになんで敵意剥き出しなの!? なんでいきなり本気になってんの!?
「名前の推しには勝ちたいじゃん」
そう言って笑う研磨の瞳は、真剣そのものだ。久々にこんな研磨を見た気がする。それでもどうして私の推しに勝ちたいのか分からずに、首をかしげた。
「はー……、鈍感すぎでしょ」
「何が!?」
「おれがこんなに勝ちにこだわるの、初めてだから」
「うん!? そうだね!?」
「妬いてんの、黒いチームに」
は!?
はぁあぁあ!?
妬いている。その言葉を理解した瞬間、顔にボッと火がついた。
え、え!? そういうこと……だよね!? いつから!?
「……むり、こっち見ないで」
「真っ赤」
「ギャー、見ないでえぇえ!」
「無理、可愛すぎでしょ」
なんて、顔を覆っている腕を跳ねのけられてしまう。こんなの、本当に不意打ちすぎる。
先程までの興奮はどこかに吹き飛んでしまった。きっと今夜は、この熱にうなされるのだろう。
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2023.8