おにぎり屋の宮さん14

 そんな感じで新しい日々が始まり、秋は深まっていった。治くんとは毎日連絡を取り合ったし、お店が休みの日には必ず会ってデートをして、それなりに順調に過ごしていると思う。

 けれどもそんな日々にも波風は立つもので。私たちの間に荒波が立ったのは、そんなある日のことだった。

 付き合いたてのラブラブな時期は不意に会いたくなるもので、会いに行っちゃおうかな、なんていきなり思いついたりもするものだ。

 とある平日、稲荷崎地区の他のお店の取材に行った帰りに、私はそれを思い立った。

ちょっと顔を見たいだけ。お店のジャマはしない。私も外回り中なんだし。ちょっとだけ。ほんの少しだけだから。

 そんなこんなでいきなり訪れた『おにぎり宮』の店の前。今は昼と夜の間の準備時間中のようで、中からはお米の炊けるいい匂いが漂ってくる。忙しいだろうから五分だけ。ちょっと顔を見るだけ。

 そう思ってガラリと扉を開いた瞬間、見えた光景は予想だにしないものだった。

「も〜♡ 宮さんってば♡」

「――ちゃんがかわええこと言うからやろ?」

「だってぇ〜」

 カウンター席に座ってイチャイチャする一組の男女。少しギャルっぽくて私より若いだろう女の子が、男性の身体にぴとりとくっついている。女の子の肩に回されたのはがっしりした腕。男性の方の顔を見ると、はた、と目が合った。無造作な黒髪と、整った顔立ち。それは間違いなく治くんだった。

 しーん、と場が静まり返り、時間がとまったかのように感じる。

「治く……ん?」

「……! 違っ……!」

「……最低! この浮気男!」

 持っていたコンビニの袋を床に叩きつけて、ピシャリと扉を閉め店をあとにする。駅の方へと駆けながら、涙がポロポロとこぼれてくるのが分かった。

 なに、なに、なんなの!?

 私、宮さんの恋人になったんだよね!?

 そういえば、好きだとは言われたけど付き合おうとは言われてないかも!?

 ……え、もしかして私の方が浮気相手!?

「最低男ー!!!!!」

 そう叫ぶ私の目からは、次々と涙が溢れていた。なんなのよ、本気なのに。本気で好きなのに。

 それからどう会社まで戻ったのか、よく覚えていない。会社に着く頃には、周りから見ても泣いたことがすぐ分かるくらいに目が真っ赤になっていた。