〜2014 autumn〜
九月のはじまりは、夏のなごりを引き連れている。朝晩は少し涼しくなったといえども、日中の気温は高いままだ。気を抜けば倒れてしまいそうなほどに、直射日光にくらくらさせられる時もある。ほんの数ヶ月前までは外でテニスしてたのになぁ、なんて、遠くに見えるテニスコートをぼんやりと見つめた。
私は影山くんみたいに、ひとつのことに打ち込んでいたわけじゃない。それなりに勉強して、それなりに部活して、内申点のために委員会なんて入って。ほどほどに、でも自己満足するくらいには集中して、時には力を抜いて。そういう風に器用に過ごしてきたんだと思う。
だから私は、影山くんのことをひとつ上の存在のように感じていたのかもしれない。同じ壇上にはいない、雲の上の存在。影山くんが彼氏になったって、きっとそれは変わっていなかったんだろう。
新学期初日の空は、夏を引き連れながらも秋の模様を成していた。
「ねぇ、名前! 影山くんとふたりで花火行ってたって本当!?」
「係一緒だったよね!? もしかして、付き合ってるとか!?」
非日常だった夏休みが終わり、日常が始まった。それでも私の心はどこか夢の中にいるようで、ふわふわと浮き足立っていた。新学期の初日、クラスメイトからの質問攻めにあってしまった私は、これが紛れもない『現実』であると改めて実感させられてしまったのだ。
「あー、……うん。そうみたい」
そう答えた私を、友人たちが取り囲む。あの影山くんの彼女になっただなんて、自分でもまだ信じられなくて、誰にも報告していなかった。
いや、理由はそれだけじゃない。彼は卒業したら東京へ行ってしまう。いつか思い出になるのなら、彼とのことは自分の心にしまっておきたい。だから私は、友人たちにあまり多くを語らなかった。
「そうみたいって、付き合ってるってことだよね!?」
「影山くんってデートの時どんな感じなの?」
「ちゅーとかした?」
友人たちからの質問を、「ほら、先生来ちゃうよ」と言ってかわす。影山くんの方をちらりと見たら、目が合ってぺこりと頭を下げられた。
私たちさ、夏休みが始まる前までただのクラスメイトだったよね。なのにさ、夏の間に私たちは付き合うことになって、あんなすごいことも経験した。思い出すだけで、身体がかあっと熱くなっていく。頬が熱い。
夏はまだ身体に濃く色をつけたままで、終わってはいないんだろう。そう思った。