あまくてにがくて青い9

〜2017autumn〜

 いつも同じ夢を見る。

 高校最後の夏休み、日焼けどめの匂いと蒸し暑い教室。緑ゆらめく植物。揺れるカーテンと、彼女の伏せた睫毛。

 高校を卒業してチームに入って、もう三年が経つ。サヨナラを言ったのはお互いだった。俺だって同意したはずなのに、三年という月日が経っても彼女の存在を忘れることができないでいる。仙台。地元に帰る度に、彼女はどうしてるだろうかとそればかりが頭をよぎっては、無理矢理掻き消していた。

 今日はサブホーム仙台でのゲームで、結果は勝ちだった。ロッカールームに戻り汗を拭く。試合中はゲームのことだけを考えていられるし、試合前も集中は出来ているつもりだ。けれども、終わった後はどうだろう。地元にいるという現実を思い出し、ぷつりと糸が切れたように頭の中が『思い出』で溢れていった。

「影山って彼女いるの?」

 ふっと横から聞こえてきた声に顔を上げる。大学を卒業と同時にチームに入ってきた同期だった。同期、といっても歳は向こうが四つも上なので、一応敬語を使っている。今日も変わらず敬語で、簡単に返事をした。

「いないっすよ」

「へぇ、意外。いつからいないの?」

「高校卒業してからっすね」

「あー、東京来る時別れた感じ?」

「……そっすね」

「だからか。お前さ、サブに来ると観客席よく見てんの」

 ずけずけと色々聞いてくるこの同期の言葉に、はっと目を見開いた。観客席。見ていたのだろうか。自覚なんてものはひとつもなかった。

「見て……ますかね」

「見てるね! 今日も見てたよ」

「そっすか……」

「わぁ、もしかして忘れられない感じ!? 女の子紹介しよっか?」

「遠慮しときます」

 忘れられない、のところには返事をせず、あとの提案にだけ遠慮しておいた。図星、だった。選手としての活動と、慣れない土地での暮らし。それと恋愛を両立させる自信なんてなかった。

 それに、今のチームにずっといるつもりもない。海外への移籍を視野に入れていて、出来ればイタリアでプレイしたいと思っている。そうすればまた、慣れない土地での暮らしが始まる。優先させるべきは何なのか、あの冬真剣に考えた。なのにどうして、頭の奥に彼女が焼きついて離れないのだろう。

「わぁ、ガチなのだ」

 そう言われたので無視をした。

 シャワーや着替えを済ませ、チームのバスに乗ってホテルへと向かう。部屋に入ると、ベッドに仰向けに倒れてすぐに眠ってしまった。バスの窓から見えた景色は、烏野からは少し離れているのになぜだか懐かしい空気が漂っていた。

 いつも、同じ夢を見る。