長身男子がいっぱいいる。人がたくさんなことだけでビビってしまっているのに、コミュ力お化けらしき男の子たちがぞろぞろと集まってきて、私はさらに縮こまった。ひえええぇ。怖いよぉ。
「音駒にも女子マネ!? おはなちゃん! よろしく!」
「木兎さん、OBなのに圧が強いです。ごめんね」
「研磨の友達なの!? 俺、日向翔陽! よろしくな!」
「ひええぇ。よ、よ、よろしくお願いします……」
明らかに陽キャすぎる男の子たちに囲まれて、ますます縮こまってしまう。ビビって後ずさっていると、わたしと同じくらいの身長の女の子に声をかけられた。
「おはなさんっ! 谷地仁花です! なんだかおなじ匂いがします! よろしくお願いします!」
「お、お、女の子だ〜! よかった! よろしくお願いします!」
女の子がいたことにホッとして胸を撫で下ろす。続々と他校の女子マネさんたちが入ってきて、私の心は安堵に包まれた。よ、よかった。
「なぁ! 研磨とおはなさんは付き合ってんの!?」
「エッ!? いや、孤爪くんとはクラスメイトで! 隣の席で!」
「ふーん、でもやたら研磨が近いけど!?」
はっと横を向いたら、私をガードするかのように寄り添っている孤爪くんと目が合った。その視線は日向くんとやらの方に移り、孤爪くんはにやりと笑ってとんでもないことを言ってのける。
「牽制してる」
「ケンセー!? なんだそれ!?」
「翔陽、名前さんのこと好きになんないでね」
ンンンンン!? ンンンンン!?
な、なにそれ! どういうことなんですか!?
「はーい、練習始めるぞ!」
誰かの声をきっかけに、みんながドタバタと位置につく。体育館の隅に避けた女子マネさんたちを見て、わたしもそれに倣った。
「さ、おはなさん! ドリンク作りに行きましょう!」
同じ匂いがすると思っていた谷地さんですらテキパキ動きはじめていて、私はとにかくヘマをしないように頑張ってついていった。谷地さん、全然しっかりしてるじゃん。同じ匂いがすると思ってすみません。ひえぇ。
それより、さっき孤爪くんが言っていた『牽制してる』って!? 『好きになんないでね』って、なんでそんなこと言うの!?
「おはなさんは、孤爪さんの彼女さんなんですか?」
「ひゃい!?」
隣に立っていた谷地さんからの突然の言葉に、ドリンクのボトルをひっくり返しそうになってしまう。ちょっとこぼれたけど、完全にひっくり返していないのはわたしにとっては優秀な方だ。
「つ、つ、付き合うとかそんな!」
「でも、孤爪さんはおはなさんのこと好きですよね!」
「えっ!? えっ!?」
えっ!? そうなの!?
「だってあんな孤爪さん見たことないですもん! 他のマネージャーさんとも話してるの見たことすらないです!」
そうなのかな。谷地さんから見てそう見えるってことは、ありえないこともないのかもしれない。いやいや! おこがましいにも程がある!
だって私、あのおはなちゃんだし。
『おはなちゃんは恋愛対象じゃないよな』
『うん、なんか動物? 宇宙人?』
自惚れてしまいそうになった瞬間、浮上したのはクラスメイトたちの発言。そうだよね。きっと、面白い女だとか、からかってるだけだとか、そんなのだと思う。罰ゲームで告白されたことあるし。それくらいわたしにも分かる。
とにかくとにかく! 自惚れちゃダメ! 調子に乗っちゃダメ!
冷水で濡らした手を、頬にパンと打ちつける。カゴいっぱいに詰めたドリンクを持ち帰ると、部員たちがちょうど一度目の休憩に入ったところだった。
そう、彼はきっとわたしに興味があるだけ。面白がってるだけなんだから。
ふっと孤爪くんの方を見る。ほら、今彼はわたしの方なんて見てなくて、日向くんとやらと楽しくお話しているし。
そのうち音駒と烏野との練習試合が始まって、わたしはすぐに釘付けになった。バレーボールの試合を見るのは初めてじゃない。けれどもこんなに近くで見るのは初めてで、おまけに真面目な顔している孤爪くんを見るのも初めてで、なんだか変な気持ちになった。
見ていて分かったことがある。たぶん孤爪くんは日向くんに興味を持っていて、彼のことを面白いと思っているんだろうってこと。わたしに向ける目と、日向くんに向ける目はすこし似ている。
なんだ、そっか。やっぱりそうなんじゃん。
孤爪くんは、たぶん好奇心旺盛なんだとおもう。好きだとか、恋愛だとか、たぶんそういう次元にいない。興味のあるものに、向かっていくだけ。
ざわざわ。
ざわざわざわ。
心の奥を、何かモヤモヤしたものが埋めつくしていく。何これ。こんな黒いきもち、わたしは知らない。
「雨でも降るんですかね?」
そうつぶやいたら、谷地さんが「予報は雨じゃないです!」と答えた。
このモヤモヤの正体を、わたしはまだ知らない。