わたしのあだ名はおはなちゃん。隣の席の男の子は孤爪くん。孤爪くんはどうしてだか、いつもわたしにだけ話しかけてくる。みんなの見ていないところで。
「な、な、なんで教室に誰もいないの!?」
授業の合間の休み時間。お手洗いから戻ってくる途中、他のクラスの友達との立ち話に夢中になってしまい、チャイムと共に教室に駆け込んだ。しかし目の前に広がるのはしんと静まり返った教室。クラスメイトたちはどこに消えてしまったのだろう。
えっ!? 何事!? そして誰もいなくなった!?
……じゃない! 移動教室だ!
選択科目である世界史の授業は、いつも視聴覚室で行われている。きっとそこだろう。ダッシュで階段を駆け上がり、視聴覚室の扉をバン! と開いた。
「あれ? 誰もいない……?」
「何してるの?」
「はひぇ!? 孤爪くん!?」
「次、東棟になったけど」
どうしてだか現れた孤爪くんに、ぐいっと腕をひっぱられる。指先が綺麗だ。それよりも、なぜ彼がここにいるのだろう。
「なんで孤爪くんここに……」
「ん、むかえにきた」
ンンンンン!? 迎えに来た!? なんで!? わたしがいなかったから!?
東棟へと向かう渡り廊下を、引っ張られるようにして進む。孤爪くんの手は少しあたたかくて心地いい。けれども男の子に手を引っ張られたまま歩くなんてまるで恋愛小説みたいで、わたしの心はまた縮こまった。この状況は何!?
「なんでわたしに構うの?」
「おれ名前さんに興味あるのかも」
「!?」
興味!? 興味とは!?
きっとあれだ。また不思議ちゃんとか珍獣扱いされてるあれ。たぶんわたしがこんなだから興味を抱いただけで、変な意味じゃない。だって、わたしのことそういう風に見たひとなんて、だれもいないし。
「ね、GWは暇?」
「ひ、ひますぎますが!?」
「じゃ、ちょっと手伝って」
手伝う。はて、何のことだろう。
分からないけどオーケーしておいたら、放課後体育館に連れて行かれた。なんで。
◇
「け、け、研磨が女の子を連れてきたぁあぁ!」
喜んでいるのか嘆いているのか分からないモヒカン頭の男の子が、孤爪くんの肩をゆらゆらと揺らしている。その隣で二年生の時同じクラスだった福永くんが、「おはなさんお花畑」とよく分からない言葉を放っていた。
「研磨さん! 彼女さんっすか!?」
にゅっと顔を覗かせた長身くんに、驚いてヒッッッと変な声が出てしまう。ひえぇ、バレー部の人って大きい!
孤爪くんが彼女さんですか? に返事をしないので、モヒカンくんがまた荒ぶっている。なんだか面白いひとだなぁ。っていうか、なんで返事しないの!?
「ってことで、名前さんには合宿の手伝いしてもらうから」
「ヒッッッ!? 合宿!? 体育会系……、むり、バレー部ぶっ壊しちゃう……」
わたしに手伝いをさせるなんて、本当にバレー部をぶっ壊したいのでしょうか!? そうとしか思えない。だって、他にも暇な人いると思うし。
「ふっ、大丈夫、壊れないよ」
「ひえええぇ迷惑だったら追い出してください……」
「他校の男子も来るんだけど」
「ヒェ!? 長身体育会系!?」
体育会系は苦手だし、背の高い男の子はちょっと怖い。孤爪くんくらいがちょうどいいんだけどなぁ。はっ! 深い意味はないけど!
「そいつらのこと、好きになんないでね」
ン!? ンンンンン!?
それってどういう意味でしょうか!?
孤爪くんは、いつもわたしの心を掻き乱す。きっと、反応が面白いからからかっているだけ。そうなんだと思う。
彼の言動は気にしないことにして、その日はバレーボールの基礎知識とドリンク補充なんかについて教わって帰った。頭パンパン。本当、バレー部ぶっ壊しちゃわないか心配すぎる。
そうしてあっという間にGWが訪れて、わたしはバスに揺られて他校の土を踏んでいた。