「おはなちゃーん! 孤爪くんが探してたよ!」
孤爪くんと知り合って数日、隣の席で同じ委員会だということ以外に、接点などないはずだった。同じ路線使ってて、最寄り駅がとなりってこととかはあるけど。けれども探される用事などないはずなので、またもやわたしは混乱してしまった。
なんで? 女子と喋らないらしい孤爪くんが、わたしに用事!?
「ひぇ!? 何かしたかな!?」
「なんか、美化委員の作業? これからするんだって。孤爪くんって女子に話しかけてくるんだね。初めて喋ったよ」
わりとわたしには話しかけてくる気がするのですが!? いや、それより忘れてた! 委員会!
「委員……! わ、忘れてた! ありがと!」
「頑張れー!」
中庭の清掃をすると言っていたのは覚えていた……、はずだった。今日だったなんて。すぐ忘れるし、道には迷うし、気が利かないし、とりえなんてひとつもない自分のことがいやになる。泣きたい気持ちを抑えながら中庭に向かうと、体操服姿のプリン頭がひょこりと見えた。
「孤爪くん! 遅れてごめんね!」
「制服で着たんだ」
「えっ? ぎゃ! みんな体操服!?」
「もう始まってるし、いいんじゃない?」
「ひえぇ……すみません……」
遅れて来たせいでまた目立ってしまっているし、なんだか周りからの視線が痛い。孤爪くんに渡された軍手をはめて、びよーんと伸びている雑草をむしり取った。この雑草、わたしみたいだな。くたくたしてるし。邪魔だし。みんなが華やかなお花さんならば、わたしは抜かれる雑草。きっとそんな感じだと思う。
「あれ? こんなところにもちいさなお花……」
いそいそと雑草を抜いている途中で飛び込んできたのは、花壇からはみ出たところに咲いた小さなお花。ちっちゃくて居場所を間違えていて、こっちもわたしみたいだな、なんて思ってしまう。いや、お花さんに申し訳ないか。でもこのお花さん、踏まれたあとがある。
「お花さん踏まれてる? ごめんねー、お花さん」
「そういうとこ変わんないね」
「え?」
降ってきた声に顔を上げると、孤爪くんがまた口角を上げてこちらを見ていた。ぐぬぬ。たぶんわたし、この視線と表情に弱い。なんか、逃れないような気がする。
それより!
変わんないってなにが? このひと、昔のこともっと覚えてる?
「きゃ!」
時間がとまったかのようなその一瞬で、突如吹き荒れたのは春の風。あたたかい強風。ばさりと靡いたセーラーと、それからスカート。
わたしの身につけているものが、風にさらわれて捲れ上がる。なんで、今。
「……み、みた?」
「……もうお花柄じゃないんだ」
「さすがに違うから! っていうか! 見てるよね!?」
「何のことか言ってないけど?」
「こ、こ、孤爪くんのえっち!」
女子と喋らない? ミステリアス? どこが? 謎な人なのはまあ、合ってるのかもしれない。このひとがこんな顔をするの、知っているのはわたしだけ?
「そうかもね」
そう言って笑うきみは、これまでどこに隠れていたの? ばくばくしているのは、きっとスカートが捲れたところを見られたから。うん。それだけ。話題を変えよう。
「えっと、えっと! 一回ゴミ捨てに行こっか!」
「焦りすぎ」
立ち上がるわたしの腕をひっぱってくれる辺り、孤爪くんって紳士なのかもしれない。いや、紳士なら見てないフリするでしょうけど!
ひっぱられた腕を掴んだ手が、わりと大きなことに気づいてしまってもっとばくばくする。立って並ぶと、思っていたより身長あるし。
「こ、こ、孤爪くんって意外と身長高いんだね」
「バレー部だと低い方」
「でもわたしと並ぶと結構差があるよ! 何センチなの?」
「ひゃくろくじゅうきゅー……、くらい?」
「十八センチ差! 知ってた? 十八センチ差ってちょうどいいんだって!」
「ちょうどいい?」
「恋人の身長差! ハグとかちゅーとかしやすいんだって!」
話題の変更に成功したことに、わたしは興奮していたらしい。先日恋愛小説で得た当てにならない情報を、ぽろりと口にしてしまうくらいには。
はっと我に返って見上げたら、予想通りまたあの笑みをみせる孤爪くんがいた。その視線、その口角、本当やめて。どうにかなっちゃいそう。
「ふーん? 試してみる?」
「違……! そういう意味じゃ!」
「うそだよ、かわいー」
「孤爪くん……!」
「本当のこと言っただけ。あ、時間だ。じゃーまたね、名前さん」
だーれもわたしのこと本名で呼ばなかったのに。このタイミングで言うなんて。本当ずるい。顔が熱い。逃げたい! こんなの、防御するしかない!
これもまた序章の序章なんて、気がついていないわたしは本当にばかなんだと思う。もうあの顔絶対させないし戸惑わないから!
なんて、変な決意をするのだけど、それがむだな決意だと知るはずもなかったのだった。