孤爪くんがぐいぐい攻めてくるので防御したい!3

「おはなちゃーん! 孤爪くんが探してたよ!」

 孤爪くんと知り合って数日、隣の席で同じ委員会だということ以外に、接点などないはずだった。同じ路線使ってて、最寄り駅がとなりってこととかはあるけど。けれども探される用事などないはずなので、またもやわたしは混乱してしまった。

 なんで? 女子と喋らないらしい孤爪くんが、わたしに用事!?

「ひぇ!? 何かしたかな!?」

「なんか、美化委員の作業? これからするんだって。孤爪くんって女子に話しかけてくるんだね。初めて喋ったよ」

 わりとわたしには話しかけてくる気がするのですが!? いや、それより忘れてた! 委員会!

「委員……! わ、忘れてた! ありがと!」

「頑張れー!」

 中庭の清掃をすると言っていたのは覚えていた……、はずだった。今日だったなんて。すぐ忘れるし、道には迷うし、気が利かないし、とりえなんてひとつもない自分のことがいやになる。泣きたい気持ちを抑えながら中庭に向かうと、体操服姿のプリン頭がひょこりと見えた。

「孤爪くん! 遅れてごめんね!」

「制服で着たんだ」

「えっ? ぎゃ! みんな体操服!?」

「もう始まってるし、いいんじゃない?」

「ひえぇ……すみません……」

 遅れて来たせいでまた目立ってしまっているし、なんだか周りからの視線が痛い。孤爪くんに渡された軍手をはめて、びよーんと伸びている雑草をむしり取った。この雑草、わたしみたいだな。くたくたしてるし。邪魔だし。みんなが華やかなお花さんならば、わたしは抜かれる雑草。きっとそんな感じだと思う。

「あれ? こんなところにもちいさなお花……」

 いそいそと雑草を抜いている途中で飛び込んできたのは、花壇からはみ出たところに咲いた小さなお花。ちっちゃくて居場所を間違えていて、こっちもわたしみたいだな、なんて思ってしまう。いや、お花さんに申し訳ないか。でもこのお花さん、踏まれたあとがある。

「お花さん踏まれてる? ごめんねー、お花さん」

「そういうとこ変わんないね」

「え?」

 降ってきた声に顔を上げると、孤爪くんがまた口角を上げてこちらを見ていた。ぐぬぬ。たぶんわたし、この視線と表情に弱い。なんか、逃れないような気がする。

 それより!

 変わんないってなにが? このひと、昔のこともっと覚えてる?

「きゃ!」

 時間がとまったかのようなその一瞬で、突如吹き荒れたのは春の風。あたたかい強風。ばさりと靡いたセーラーと、それからスカート。

 わたしの身につけているものが、風にさらわれて捲れ上がる。なんで、今。

「……み、みた?」

「……もうお花柄じゃないんだ」

「さすがに違うから! っていうか! 見てるよね!?」

「何のことか言ってないけど?」

「こ、こ、孤爪くんのえっち!」

 女子と喋らない? ミステリアス? どこが? 謎な人なのはまあ、合ってるのかもしれない。このひとがこんな顔をするの、知っているのはわたしだけ?

「そうかもね」

 そう言って笑うきみは、これまでどこに隠れていたの? ばくばくしているのは、きっとスカートが捲れたところを見られたから。うん。それだけ。話題を変えよう。

「えっと、えっと! 一回ゴミ捨てに行こっか!」

「焦りすぎ」

 立ち上がるわたしの腕をひっぱってくれる辺り、孤爪くんって紳士なのかもしれない。いや、紳士なら見てないフリするでしょうけど!

 ひっぱられた腕を掴んだ手が、わりと大きなことに気づいてしまってもっとばくばくする。立って並ぶと、思っていたより身長あるし。

「こ、こ、孤爪くんって意外と身長高いんだね」

「バレー部だと低い方」

「でもわたしと並ぶと結構差があるよ! 何センチなの?」

「ひゃくろくじゅうきゅー……、くらい?」

「十八センチ差! 知ってた? 十八センチ差ってちょうどいいんだって!」

「ちょうどいい?」

「恋人の身長差! ハグとかちゅーとかしやすいんだって!」

 話題の変更に成功したことに、わたしは興奮していたらしい。先日恋愛小説で得た当てにならない情報を、ぽろりと口にしてしまうくらいには。

 はっと我に返って見上げたら、予想通りまたあの笑みをみせる孤爪くんがいた。その視線、その口角、本当やめて。どうにかなっちゃいそう。

「ふーん? 試してみる?」

「違……! そういう意味じゃ!」

「うそだよ、かわいー」

「孤爪くん……!」

「本当のこと言っただけ。あ、時間だ。じゃーまたね、名前さん」

 だーれもわたしのこと本名で呼ばなかったのに。このタイミングで言うなんて。本当ずるい。顔が熱い。逃げたい! こんなの、防御するしかない!

 これもまた序章の序章なんて、気がついていないわたしは本当にばかなんだと思う。もうあの顔絶対させないし戸惑わないから!

 なんて、変な決意をするのだけど、それがむだな決意だと知るはずもなかったのだった。