「孤爪くん? クラスいっしょになったことあるけど、喋ったことないしあんま記憶にないかな」
「そうなの?」
「ていうか女子と喋らないよね。山本くんとかとよく喋ってるとこ見かけるけど。バレー部でしょ?」
「バレー部なんだ……」
「春高出てたじゃん」
そう言って箸を動かすあーちゃんの横で、春の高校バレーとやらの記憶を呼び起こす。うちの高校のバレー部が強いらしいというのは知っていた。友達に誘われて応援にも行ったっけ。電車を乗り間違えて、着いた頃には最終セットだったんだけど。
「孤爪くんがどうかしたの?」
「や、隣の席になったから、どんな子かなって!」
「小学校いっしょじゃん」
「やはりそうなのね……」
呼び覚ましたくない過去を、孤爪くんも知っているという事実に目をそむけたくなる。極力関わらないようにしよう。うん、そうしよう!
そう思ったのだけれど、私と彼との接点はまたひとつ増えてしまうのだった。
◇
「クラスひとりひと役ついてもらうからな! 委員長やりたい人!」
午後のまどろみの中、突然響いた担任の声にびくりと体が跳ねた。声の大きい体育教員、熱血系。うう、にがてなタイプだ。
ちらりと横を見るとまたプリン頭が目に入って、バレー部も体育会なのかなと疑問がわいた。彼はそういうふうに見えないけど。
「おはなちゃん、女子もう美化委員しか残ってないよ?」
「えっ!?」
うしろの子がそっと声をかけてくれたおかげで、自分に残された選択肢がひとつだけだということに気がつく。えっ、出遅れた!? 美化委員って、花壇のそうじとかするあれだよね?
「じゃあ、美化委員しますぅ……」
「それしかねーじゃん」
どっと笑いが起きて、またクラス中の注目を浴びてしまった。ぐぬぬ、目立ちたくないのに。新しいクラスでは気配を消そうと思っていたのに!
「男子の美化委員、誰がやる?」
「それっておはなちゃんのお世話役じゃん」
世話役なんていりません。わたしもう高校三年生です。幼馴染いなくてもちゃんとやれます。たぶん。うそ、自信ないけど。
はあ、とため息をつきながら顔を上げると、わたしの真横でゆるく手を上げる孤爪くんの姿が目に入った。
「お、孤爪美化委員してくれるか」
「孤爪が自分から手あげてるの初めて見たかも」
「微妙な係しか残ってねーからじゃね?」
極力関わらないようにしよう。そう誓ったのはついさっきのことだと思う。それなのにどうしてだか、わたしと孤爪くんの接点は増えるばかりだ。きのうまで、存在も知らなかったのに。
「よ、よろしくおねがいします……」
そうお辞儀したら、「なんで敬語」って笑われた。ついでに「あげる」なんて飴玉を渡されて、なんだか餌付けされてる? このひと本当にみんなが言ってる孤爪くんと同じひと? よく分からない。
しかしのちのち、孤爪くんがぐんぐん近づいてくる人だということを、たーっぷり思い知らされることとなる。