農家の北さん11

 今日は絶対流されない。北さんのペースに飲まれない。お酒にも飲まれない。さて、策士な北さんにどう立ち向かおう。

 軽く化粧をして、普段ほとんど履かないジーパンに足を通す。スカートばっか履いてるからすぐ触れるで? なんて言われたら、もうスカートなんて履けない。

 いつもはふわふわした服装が多いけど、今日はラフなTシャツにした。このTシャツ、近所用なんだけどな。とてもデート用じゃない。

 ちょうど準備が完了した頃に、北さんから到着したとメッセージが届いた。期待なんてしていないのに、それだけでドキドキそわそわしてしまう自分がいる。

 アパートの前に出ると北さんの車が横付けされていたので、最寄りのコインパーキングまで案内するため助手席へと乗り込んだ。

「〇〇ちゃん、おはよう」

「おはようございます」

「ええかげん敬語やめてええのに」

「つい、癖で」

 北さんの顔を見るとこの前の夜を思い出して、身体がかあっと熱くなった。彼の裸が浮かんできて、ぶんぶんと頭を振る。あの手に触れられたんだなぁとか、あの唇で愛撫されたんだなぁとか、いやらしいことを思い浮かべてしまう自分がイヤになってしまう。すうっと深呼吸して、頭を健全デートモードに切り替えた。

 車を停めた私たちは、玄関に北さんの荷物を置いて街へと出かけることにした。玄関に入った瞬間襲われたらどうしよう、なんて思ったけど、襲われなかったのでとりあえずは良しとする。

 それから私たちは中華街で食べ歩きをしたり、異人館の方をぶらぶら歩いたりして観光地デートを楽しんだ。

「ちょい休憩しよか?」

「あ、そこスタバありますよ」

「おお、神戸っぽいスタバや!」

「観光客向けですね」

「〇〇ちゃんこの辺来たことあるん?」

「先輩と取材で来ました。スタバは飲んでないけど」

「じゃ、入ろか」

 本当、恋人同士なんだなぁ、私たち。こうして会話をしていると、普通のカップルだ。

 北さんのあとをついて店内に入り、レジで飲み物を注文する。北さんは普通のドリップコーヒーを頼んで、私は季節のフラペチーノを頼んだ。

「〇〇ちゃん甘いの好きなん?」

「はい、大好きです!」

「へぇ。せやからちゃんとお肉ついとるんやな」

「そ、そんな太ってましたか!?」

「んー? 柔らかい身体やなぁって」

「~ッ!」

 あの夜を思い出すような言葉がぽっと出てきて、また身体が熱くなった。フラペチーノの容器を頬に当てて、無理矢理その熱を冷ます。容器にマジックで書かれた『Thanks♡』のハートマークが、今デートをしているという現実を突きつけてきて、頭がくらくらした。

「なぁ、〇〇ちゃん、ひと口ちょーだい」

「どうぞ」

「うまっ!」

「でしょ!? おいしいですよね!」

「間接キスやな」

 ああ、もう。この人って本当に。

 口の中が甘ったるいのは、フラペチーノのせいなのか、間接キスのせいなのか分からない。きっとあとで本物のキスをされるんだろうな、なんて想像してしまって、私はまたフラペチーノの容器で顔を冷やした。

 今日は絶対流されない。キスまではしても、その先には進めさせない。お酒は飲まないし飲まれない。策士北さんに騙されないし、触れさせない。  そんな固い決意をしながら、さっき彼が口をつけたストローで、甘い液体を飲み干した。