取材から一週間、八月に入ったこともあり連日日照りが続いている。電車の車窓を眺めながら、北さんの田んぼはどうなっているのかな、なんてそんなことをぼんやりと考えた。
今日は◇◇先輩とふたり、電車に乗って『おにぎり宮』さんへと向かっている。稲荷崎方面にあるそのお店で、店主の宮さんと、お店にお米を卸している北さんとの対談をする日なのだ。
『おにぎり宮』さんの最寄り駅で降りて、お店までは徒歩三分。歩いてすぐだというのに、猛暑日のせいで汗が滝のように流れる。
……これから北さんに会うのにお化粧崩れちゃうなぁ。って、なんでここで北さんが出てくるの!
両手でぱちんと頬を叩いて、頭を仕事モードに切り替えた。ちゃんとやらないと。これからメインの対談なのだから。
お店に着いて扉を開けると、カウンター席に腰をおろしている北さんの顔が飛び込んできた。その隣には、地域情報誌で見た宮さんが立っている。
わぁお、ナマ宮さんだ。本当、イケメンだなぁ。
「宮さん、北さん、今日はよろしくお願いします」
◇◇先輩が先に挨拶をして、私もそれに続く。宮さんの方を向いて、かしこまって挨拶をした。
「初めまして。北さんの担当をしてます苗字〇〇と申します。本日はよろしくお願いします」
「へぇ。苗字さん、かわえぇ人やなぁ。よろしくお願いします」
「ひぇ!? は、はぁ……」
可愛い!? ちょ、北さんに続いてこの人も何なの!? きっとこれは、社交辞令だろう。そう思うことにしよう。
北さんが口を開いたのは、私がそんなことを考えていた時だった。
「治」
「なんですか?」
「〇〇ちゃんは俺のやから、手出すなや?」
んんんんんん!?
瞬間、熱くなる身体。固まってしまった先輩と宮さん。北さんだけがひょうひょうとした顔で、「ほな、始めましょか」なんて言っている。
いまの、なに!?
何なのぉ!?
そのあとの対談のことはよく覚えていない。後から録音を聞いたところしっかりやり取り出来ていたし、メモもきちんと取れていた。どうやら私は無心になって、仕事モードを保っていたらしい。
帰り際、宮さんがお土産にとおにぎりを渡してくれた。ありがとうございます、とお礼を言った私に、宮さんはそっと耳打ちをした。
「苗字さん、北さんガチやと思いますわ」
「えっ!?」
「俺高校から北さんのこと知っとるけど、浮わついた話聞いたことあらへんですもん」
「はぁ……」
「ま、応援しとりますよ!」
「そんなんじゃないですからっ……!」
宮さんと少し話していただけで、北さんから向けられる視線が痛い。ガチなのって何。何なのぉ、本当に!
宮さんと先輩が何やらお話を始めたので、ささっと挨拶をして先にお店を出る。だって、北さんといると心臓が爆音になるんだもん。
でも、これは恋じゃない。きっとそう。言い寄られているから、緊張してしまうだけ。それに、恋愛なんて久々すぎてどんなものか忘れてしまった。私には縁遠いものだもの。彼氏がほしいとも思わないし、北さんとどうなりたいとかも分からない。 しかし次のデートで、私たちの関係は一歩進んでしまうこととなる。そんなことは知らず、八月の眩しい空を仰いだ。