火星の裏側で抱きしめて7

スピカⅠ

 研磨くんが用意してくれたアイスコーヒーには、今日も星型の氷が入っていた。あかねちゃんがガムシロップとミルクを入れて、それをぐるぐるとかき混ぜる。居間に通されて五分もしないうちに、私たちはお喋りに夢中になっていた。

「へぇ〜、あかねちゃんのお兄さんが研磨くんと同級生なんだ」

「そうなの! 高校の部活が一緒で」

「部活?」

「そう! バレー部! 研磨くんセッターだったんだよ! 星羅ちゃんスポーツは見る? バレーは素敵よ〜!」

「うーん、あんま見ないかな」

「じゃあ今度一緒に観に行こう!」

 あかねちゃんの提案に、なぜか自然と「うん」と了承していた。こんな風に、友人からの誘いにオッケーを出すのは久々かもしれない。というか、私の中であかねちゃんがもう友達認定されている、というのも不思議なんだけれど。

 それよりも、研磨くんがスポーツをしていたことにびっくりだ。だって、あんなに体力がないことを強調しているし。そういえばと、『セッターの極意』という本が棚に並んでいたことを思い出す。バレーボール、今でも好きなんだろうな。

 コーヒーを一口啜って、またあかねちゃんに話しかける。初対面なのに言葉に詰まらないのは初めてかもしれない。

「お兄さんと研磨くんが同級生ってことは、お兄さんとは二個違い?」

「ううん、三つだよ。あ、研磨くんって一年大学休学してたの。だから歳は私たちの三つ上」

「そうなの!? 知らなかった! ……まだ知らないことだらけだな〜、研磨くんのこと」

 研磨くんは、本当に謎の多い人だと思う。その謎を知りたいと思うのは、彼が『火星の裏側』さんだからだろうか。

 私がふう、とため息をつくと、あかねちゃんがわくわくしたような表情をして口を開いた。身体はテーブルに乗り出していて、目をきらきら輝かせている。そしてあかねちゃんの口から発せられた言葉に、私はコーヒーを吹き出しそうになってしまうのだった。

「ねぇ、もしかして、星羅ちゃんって研磨くんのこと好き?」

「ごほっ! えっ!? えっ!?」

「そういう顔してたよ〜!」

 女の子はすぐ恋愛の話に持って行きたがる。けれどもあかねちゃんの話はそういうのとは違う感じがして、いやじゃなかった。

 それよりも! んん!? 私が研磨くんのことす、す、好き!?

「ううん! そんなんじゃないから! それに、研磨くん彼女いるんでしょ?」

「いないと思うけど」

「……ルナさんは?」

「仕事相手でしょ! 研磨くんのそういう話聞いたことないけど、仕事とプライベートはきっちり分けるタイプだと思うの! だからルナさんともそういうんじゃないと思う!」

 そういえば、在宅仕事だからプライベートとは部屋を分けている、って言っていたっけ。ルナさんがただの仕事相手なら、私もそう。恋愛対象にならないのは、私も同じなんだろう。

「あっ、でもね! 星羅ちゃん望みあると思うの!」

「へっ!?」

「だって研磨くん、星羅ちゃんと話す時見たことない顔してたもの!」

 そんなことを言われたら、話しやすいあかねちゃんに対してでもなんと答えたらいいか分からなくなる。身体がかあっと火照ってしまうのを感じて、アイスコーヒーをズズッと飲み干した。星型の氷は、溶けて変な形になっている。

「星羅ちゃんと話す時口数多い気がするし! なんか喋り方も違うし!」

「そ、それは出会って間もないからだと思う! あかねちゃんたちと話す時は自然体っていうか」

「まあ、応援してるよ!」

「違うんだって〜!」

 友達ときゃあきゃあ恋愛話で騒ぐなんて、ばからしいと思っていた。けれども、この時間はなぜだか楽しくて不思議な感覚になる。私が研磨くんのことをどう思っているかはさておき、この時間が楽しいのはあかねちゃんのおかげだろう。

 笑い合ったあとはまたバレーボールの話に戻って、私たちは夏に行われる漫画とのコラボ試合を見に行く約束をした。研磨くんの仕事が終わるまで一時間ほどだったけれど、充実した時間を送れたのだった。