讃美歌に包まれたチャペルの中で、後輩ちゃんが真っ白なウェディングドレスに包まれて歩いてくる。後輩ちゃん、綺麗だなぁ。プリンセスラインのドレスがよく似合っている。後輩ちゃんのお父さんは既に鼻が真っ赤になっていて、見ているこっちまで泣けてきた。
お父さんが北さんにバトンタッチして、ふたりが手を取り合う。誓いの言葉。指輪の交換。それから、誓いのキス。
青い海を背景にキスを交わすふたりの姿は神秘的で、結婚っていいなぁ、なんてぼんやりと考えた。
結婚。したいのかな、私。いいなぁって思うってことは、したいんだろうな。でも相手は治くんしか考えられない。やっぱり好きなんだなぁ。好きすぎるんだ。治くんのこと。
式が済み、披露宴が始まると、新郎思い出の写真にたびたび治くんが登場した。ふふっ、髪の毛銀色じゃん。やんちゃしてたんだなぁ。侑さんもセットで登場しているけれど、やっぱり二人は似ていても違う。全然違う二人なんだなぁって、思わされる。
ああ、なんであんな一瞬で判断してしまったんだろう。って今更後悔しても過去は過去。とにかく今日は謝ろう。謝り倒そう。それしかないと思うの。
『それではデザートビュッフェをご用意してますのでご自由にお楽しみ下さい』
そんなアナウンスが流れて、先輩たちは吸い寄せられるようにケーキの元へと走っていった。今だ! そう思ったのは向こうも同じだったようで、はた、と目が合う。
ふふっと笑い合って、ケーキを遠目に治くんのそばに寄っていった。
「「あの……」」
声が重なり、ふふふっと笑ってしまう。前にもこんなことあったな、なんて思っていたら、治くんが「前にもこんなことあったな」と言いはじめたものだからびっくりした。
「……私も今同じこと考えてた」
「ほんまに!?」
「……早とちりしてごめんね」
「最低な浮気男やと思うた?」
「ごめん、思った。でもね。それよりも会いたかった」
そう返すと、治くんはかあっと顔を赤らめた。うそ、照れてる? そんな治くんが可愛すぎて、私から手をきゅっと握った。
「会いたくて会いたくてしょうがなかったよ?」
「あ〜、もうアカン……! 今すぐ抱きつぶしたいわ!」
「……帰ってからね?」
「えっ!?」
「ずっと返事もしてなくてごめんね。ばかだなぁ私。こんなばかな女だけど、これからも付き合ってくれる?」
「当たり前や!!!!」
遠くの方で、治くんの友達や先輩たちが新郎新婦を取り囲んでいる。仲間に囲まれる二人はとても幸せそうで、あたたかい雰囲気に包まれていた。
「いいなぁ、結婚」
「えっ!? ◇◇ちゃん、結婚とか憧れるん!?」
「そりゃあね。いいなぁって。思うよ……?」
「……じゃあ、する?」
「え?」
「結婚……」
「まって、むり」
「え!? 無理なん!?」
「違うの! 嬉しすぎてしんどい無理、キャパオーバーです! って意味!」
「なんやそれ」なんて言って笑う治くんはやっぱり大きくて、触れた手は温かくて、どきどきした。
「……よろしくお願いします」
「へ!? 何が!?」
「……結婚! そっちから言ったんでしょう!?」
「へ!? ほんまに!? ええん!?」
「嘘なんてつかないよ」
ああ、身体が熱いや。人の結婚式で、何話してるんだろうね、私たち。
私さ、後輩ちゃんと北さんの応援してるつもりだったんだよ? でもさ。キューピッドは彼女と北さんだったのかもね。
「ケーキ取り行こか?」
「うん」
青い海を見つめながら、ビュッフェのケーキを選ぶ私たち。治くんは食べ物ならなんでも好きみたいで、全種類をお皿に載せていた。
そんな姿が可愛くって、つい笑ってしまう。知るたびに好きになっていくよ。治くんのこと。
「そういえばさ、〇〇ちゃんと北さん『ちゃんと御殿』建てるらしいよ?」
「ほんまに!? 新婚でふたりきりやのに一軒家てスゴいな!?」
「もうすぐお子さん生まれるしいいんじゃない?」
「ハァ!? それ聞いてへん! 進展早すぎやろほんま!!!!」
「だよねぇ。びっくりさせられっぱなしだよ、本当」
そんな話をしながら選んだのは、すっぱいベリーがたくさん乗ったショートケーキ。恋はたっぷりの生クリームのように甘い。けれども甘い中に放り投げられたからこそ、少しの酸っぱさが強く感じるものだ。
「ねぇ、治くん」
「?」
「大好きよ」
「〜っ! 俺も大好きや!!!!」
自分主役とちゃうねん! と侑さんが治くんにツッコミを入れる。みんなが笑って、北さんと後輩ちゃんも笑って、治くんも笑って、私も笑った。みんなが笑顔になる素敵な日に、私はプロポーズをされた。
治くん、出会ってくれてありがとう。私を好きになってくれてありがとう。いっぱい幸せにしてね? 私も幸せにするからね。
繋がれた手は、大きくてあたたかくて。うん。ドキドキした。
きっと、いつになってもドキドキさせられるんだろうなぁ。そんなことを想いながら、私は遠くに見える海を見つめた。
それから。
リモートワークを続けてくれた後輩ちゃんは産休に入り、私は新たに入ってきた新人ちゃんの指導社員についた。相変わらずバタバタしているけれど、バタバタしているのは仕事のせいだけじゃない。治くんとの結婚式の準備に追われているからだ。
「なんか先輩幸せそうですね」
新人ちゃんにそう言われたものだから、大きな声で「うん!」と答えておいた。幸せだよ。今、すごく。
きみに出会ったのは偶然かもしれない。担当替えがなかったら出会っていなかっただろうし、話すこともなかったと思う。後輩ちゃんと北さんがくっついてなかったら、治くんとふたりきりになることもなかった。
全ては偶然、そして必然。
『今日、久々飯行こか?』
治くんからのメッセージに、喜んだ顔のスタンプを送り返す。あー、幸せだな。今、本当に幸せ。
私、もうすぐ宮になります。