おにぎり屋の宮さん18

 讃美歌に包まれたチャペルの中で、後輩ちゃんが真っ白なウェディングドレスに包まれて歩いてくる。後輩ちゃん、綺麗だなぁ。プリンセスラインのドレスがよく似合っている。後輩ちゃんのお父さんは既に鼻が真っ赤になっていて、見ているこっちまで泣けてきた。

 お父さんが北さんにバトンタッチして、ふたりが手を取り合う。誓いの言葉。指輪の交換。それから、誓いのキス。

 青い海を背景にキスを交わすふたりの姿は神秘的で、結婚っていいなぁ、なんてぼんやりと考えた。

 結婚。したいのかな、私。いいなぁって思うってことは、したいんだろうな。でも相手は治くんしか考えられない。やっぱり好きなんだなぁ。好きすぎるんだ。治くんのこと。

 式が済み、披露宴が始まると、新郎思い出の写真にたびたび治くんが登場した。ふふっ、髪の毛銀色じゃん。やんちゃしてたんだなぁ。侑さんもセットで登場しているけれど、やっぱり二人は似ていても違う。全然違う二人なんだなぁって、思わされる。

 ああ、なんであんな一瞬で判断してしまったんだろう。って今更後悔しても過去は過去。とにかく今日は謝ろう。謝り倒そう。それしかないと思うの。

『それではデザートビュッフェをご用意してますのでご自由にお楽しみ下さい』

 そんなアナウンスが流れて、先輩たちは吸い寄せられるようにケーキの元へと走っていった。今だ! そう思ったのは向こうも同じだったようで、はた、と目が合う。

 ふふっと笑い合って、ケーキを遠目に治くんのそばに寄っていった。

「「あの……」」

 声が重なり、ふふふっと笑ってしまう。前にもこんなことあったな、なんて思っていたら、治くんが「前にもこんなことあったな」と言いはじめたものだからびっくりした。

「……私も今同じこと考えてた」

「ほんまに!?」

「……早とちりしてごめんね」

「最低な浮気男やと思うた?」

「ごめん、思った。でもね。それよりも会いたかった」

 そう返すと、治くんはかあっと顔を赤らめた。うそ、照れてる? そんな治くんが可愛すぎて、私から手をきゅっと握った。

「会いたくて会いたくてしょうがなかったよ?」

「あ〜、もうアカン……! 今すぐ抱きつぶしたいわ!」

「……帰ってからね?」

「えっ!?」

「ずっと返事もしてなくてごめんね。ばかだなぁ私。こんなばかな女だけど、これからも付き合ってくれる?」

「当たり前や!!!!」

 遠くの方で、治くんの友達や先輩たちが新郎新婦を取り囲んでいる。仲間に囲まれる二人はとても幸せそうで、あたたかい雰囲気に包まれていた。

「いいなぁ、結婚」

「えっ!? ◇◇ちゃん、結婚とか憧れるん!?」

「そりゃあね。いいなぁって。思うよ……?」

「……じゃあ、する?」

「え?」

「結婚……」

「まって、むり」

「え!? 無理なん!?」

「違うの! 嬉しすぎてしんどい無理、キャパオーバーです! って意味!」

 「なんやそれ」なんて言って笑う治くんはやっぱり大きくて、触れた手は温かくて、どきどきした。

「……よろしくお願いします」

「へ!? 何が!?」

「……結婚! そっちから言ったんでしょう!?」

「へ!? ほんまに!? ええん!?」

「嘘なんてつかないよ」

 ああ、身体が熱いや。人の結婚式で、何話してるんだろうね、私たち。

 私さ、後輩ちゃんと北さんの応援してるつもりだったんだよ? でもさ。キューピッドは彼女と北さんだったのかもね。

「ケーキ取り行こか?」

「うん」

 青い海を見つめながら、ビュッフェのケーキを選ぶ私たち。治くんは食べ物ならなんでも好きみたいで、全種類をお皿に載せていた。

 そんな姿が可愛くって、つい笑ってしまう。知るたびに好きになっていくよ。治くんのこと。

「そういえばさ、〇〇ちゃんと北さん『ちゃんと御殿』建てるらしいよ?」

「ほんまに!? 新婚でふたりきりやのに一軒家てスゴいな!?」

「もうすぐお子さん生まれるしいいんじゃない?」

「ハァ!? それ聞いてへん! 進展早すぎやろほんま!!!!」

「だよねぇ。びっくりさせられっぱなしだよ、本当」

 そんな話をしながら選んだのは、すっぱいベリーがたくさん乗ったショートケーキ。恋はたっぷりの生クリームのように甘い。けれども甘い中に放り投げられたからこそ、少しの酸っぱさが強く感じるものだ。

「ねぇ、治くん」

「?」

「大好きよ」

「〜っ! 俺も大好きや!!!!」

 自分主役とちゃうねん! と侑さんが治くんにツッコミを入れる。みんなが笑って、北さんと後輩ちゃんも笑って、治くんも笑って、私も笑った。みんなが笑顔になる素敵な日に、私はプロポーズをされた。

 治くん、出会ってくれてありがとう。私を好きになってくれてありがとう。いっぱい幸せにしてね? 私も幸せにするからね。

 繋がれた手は、大きくてあたたかくて。うん。ドキドキした。

 きっと、いつになってもドキドキさせられるんだろうなぁ。そんなことを想いながら、私は遠くに見える海を見つめた。

 それから。

 リモートワークを続けてくれた後輩ちゃんは産休に入り、私は新たに入ってきた新人ちゃんの指導社員についた。相変わらずバタバタしているけれど、バタバタしているのは仕事のせいだけじゃない。治くんとの結婚式の準備に追われているからだ。

「なんか先輩幸せそうですね」

 新人ちゃんにそう言われたものだから、大きな声で「うん!」と答えておいた。幸せだよ。今、すごく。

 きみに出会ったのは偶然かもしれない。担当替えがなかったら出会っていなかっただろうし、話すこともなかったと思う。後輩ちゃんと北さんがくっついてなかったら、治くんとふたりきりになることもなかった。

 全ては偶然、そして必然。

『今日、久々飯行こか?』

 治くんからのメッセージに、喜んだ顔のスタンプを送り返す。あー、幸せだな。今、本当に幸せ。

 私、もうすぐ宮になります。