青い夏。三十五度超えの気温。灼熱の太陽。焦げたアスファルトの匂いと、焦燥感。はやく、はやく、と手を伸ばしたきみの夏服。
ねぇ、影山くん。
私たちあの夏、ひとには言えないことをしたね。
◇
〜2014 summer〜
高校三年、夏休み目前のことだった。
クジ引きで大当たりを引き当てた時は、うわぁ……、と青ざめた。これが祭りの景品クジならば大いに喜んでいたところだが、そうではない。クラスで育てている植物の、夏休みの間の観察記録の当番。それを決めるためのクジで大当たりを引いてしまった私は、わなわなと身体を震わせた。高校最後の夏休み、週に三回学校に来て水やりと観察記録をつけなければならないのだから。
けれどもそんなげんなりした気分は、次の瞬間に吹き飛んでしまった。
「男子の当番、影山か~!」
クラスメイトの男子の声が、すっと耳を通り抜けていった。かげやま。かげやまくん。かげやまとびおくん。
そう、一緒に当番になったのは、私が一方的に好意を寄せている彼だった。チャンスだ。そう思って話しかける声が、心なしか震えてしまう。
「かっ、影山くん、よろしくね」
あ、噛んだ。私のバカ。
「俺、部活の合宿とか試合あるんで、来れない日あります」
「あ、うん。大丈夫だよ。そういう時は私ひとりでやるから」
「あざっす」
今度は噛まずにちゃんと伝えることができて、ほっと胸を撫で下ろした。影山くんの目を見て、はっきりと言葉を口にする。
「じゃ、月水金でいいかな? 来るの」
「うっす。月水金っすね」
なんで敬語? と思いながらも、影山くんと話せる事実が嬉しくてしょうがない。胸の奥がきゅうっと詰まって、どくどくと血が巡っていくのが分かる。
まともに話したのは今日が初めてかもしれない。なのに好きになったのはなぜだろう。バレー部の試合をテレビで見た時から? 一年生の時に隣の席になったから? 消しゴムを拾ってくれたから? 三年間同じクラスだから?
きっかけなんて分からないけれど、気がつけば目で追うようになっていた。好きなんだな、って自覚したのは本当に最近。だから今回の係は、本当に嬉しかった。
高校最後の夏休み。好きなひとと、ふたりっきりの仕事。ふたりっきりの時間。少しでも仲良くなれたらいいな、なんてこの時はそんな風にしか思っていなくて。
もっと、もっとと、欲張りになっていく私がいるなんて、思いもしなかった。
夏休み目前、ホームルームの終了時刻、熱い風が窓から吹いてきみの目が細く弧を描く。夏がはじまる予感がした。
「じゃ、苗字さん、よろしく」
そう言って影山くんが笑った。
待っていたのは、あまくてにがくて青い夏。私はこの高校三年の夏を、忘れることができない。忘れられるはずなんてない。私たちはまだ子どもで、純粋で、ただひたすらにまっすぐで。恋心と欲に忠実だった。
ねぇ、影山くん。あの頃に戻れるのならば……。私はきみの手を絶対に離さないよ。