約束の日、私は朝早くからおにぎり宮さんの前にいた。到着すると既に◇◇先輩と宮さんはお店の前にいて、朝ごはんにと出来たてのおにぎりを渡してくれた。
今日はお店はお休みらしいので、わざわざ私たちのために朝からご飯を炊いてくれたのだろう。これ、北さんのお米なんだよなぁ。そう思うと、胸の奥がきゅんと痛んだ。
それから私たちは、宮さんの車を停めている駐車場へと移動して、本日の目的地へと出発した。私は後部座席で、先輩は助手席。先輩と宮さんが何やらいい感じで話していたので、先輩もやるじゃん、なんて思う。
いいなぁ。付き合う前って楽しいんだよね。いや、付き合ってからも振り回されっぱなしだったけど、楽しかった。
ああ、私、楽しかったんだなぁ。
窓の外を見ていると、北さんとのドライブを思い出して胸の奥がせつなくなる。あの日海で告白されて、キスされたんだっけ。ドキドキして、どこかに飛んでいってしまいそうだなんて思ったな。
いきなり抱きしめられたり、キスされたり、お酒飲まされて襲われたり。本当、心を乱されてばかりだったけれど。
会いたいな。元気かなぁ。私のこと、思い出してくれてるのかな。……寂しいなぁ。
そんなことを考えていると、外の景色が見慣れたそれになっていくことに気がついた。県道△□号線。あれ、この道って……。
「宮さん、この道……」
「あはは、分かってもうた?」
「~っ!」
先輩が、後部座席の方を振り返りながら言う。
「〇〇ちゃんさ、もう自分の気持ち分かってるんじゃない?」
「……」
「今日、稲刈りの手伝いだから。頑張って。ね?」
「はい……」
そう、たぶん私は自分の気持ちをもう分かっている。会ってしまえば、きっと確信に変わってしまうその気持ち。確かな答えがほしかった。絶対そうだって言いきれなかった。でも、この道を進んでいるだけで、その答えが絶対的なものへと変化していく。
宮さんがハンドルを右に切る。初めて先輩と訪れたのは、夏のはじまりの日。青々としていた田園風景は実りの秋へと変わっている。初々しかった私のほのかな甘いきもちが、少しずつ実を結んでいったように。この景色も変わっている。
田園風景の中を進んでいくと、たわわに実った稲穂の中で、大きく手を振るその人がみえた。
ああ、もう。泣いちゃいそう。
「治、ミョウジさん、〇〇ちゃん!」
宮さんが車の窓を開けると、届いてくるやさしい声。それが鼓膜に届いて、私の視界はぐにゃりと歪んだ。
宮さんの車が、田んぼに横付けするようにして停まる。ふたりが車を降りたので、私もそうした。北さんの顔が、視界に飛び込んでくる。
ああ、あなたの顔、ちゃんと見ていたいのに。なんで、どうして。涙がとまらないんだろう。
「〇〇ちゃん!? なんで泣いとるん!?」
「きたさ…っ…、えっぐ、ひっく」
「〇〇ちゃん!?」
「会いたかっ、会いたかったです…っ…」
気がついたらそう言って、北さんに抱きついていた。
ほら、想像通りだった。
会ってしまえば確信に変わってしまったこの気持ち。はじめはつぼみだった私の小さな恋心。今は大きな愛となって、私の身体を包みこんでいる。
わたし、このひとのことが、好き。大好き。世界で一番好き。
「きたさん…っ…、すき、すきです、だいすきです…っ…!」
「ん、知っとるよ」
「……!?」
「〇〇ちゃん俺のこと好きやて、分かっとったよ」
「ひえぇ……!?」
「だって〇〇ちゃん、好きでもない男に抱かれへんやろ?」
「うう……」
「なぁ、〇〇ちゃん」
「はい」
「俺のお嫁さんになって?」
「!?」
さすがに少し驚いてしまったけれど、「……はい」と答えると、北さんは「よっしゃ!」と言って私を抱きしめた。田んぼの真ん中でぎゅうっと抱き寄せられて、唇にちゅっとキスをおとされる。
「~!?」
ぱちぱちと拍手が聞こえてきて、宮さんと先輩がいたことを思い出す。ああ、もう。この人本当に。そういう人なんだなぁ。
「北さんが恋愛になるとこんなに積極的なんて、俺知りませんでしたわ」
なぜか照れた様子でそう言う宮さんに、北さんが返す。
「治はもうちょっと積極的にならなアカンな」
「!?」
「ま、頑張り? 応援しとるよ」
並んで立っている宮さんと先輩を見て、北さんがにやりと笑う。や、やっぱりこのふたり、そうですよね。いい感じですよね!?
なんて思いながらも、人の恋愛を応援している余裕なんて今の私にはない。
だって今、私、プロポーズされたんだから。
「〇〇ちゃん、ありがとうな」
「はい……」
「〇〇ちゃん、大好きやで」
そう言って北さんは、また私の唇にキスをおとした。ぎゅっと抱きしめられて、私の身体がふわっと宙に浮く。そのままぐるぐると身体が回って、三六〇度田園風景が視界にうつる。そうしてまたぎゅっと抱きしめられたので、私もぎっと抱きしめ返した。
そのあと私はドキドキしぱなっしだったけど、北さんはなに食わぬ顔で稲刈り作業をはじめた。そのうち北さんのご両親やおばあさん、親戚の方々なんかが登場して、いきなり婚約者として紹介をされて。わたわたしている間に、日が暮れる時間になっていた。
「じゃ、治、ミョウジさん、ありがとう。またな」
「あれ? 私は?」
「〇〇ちゃんは今日泊まっていくもんな?」
「ひええぇ!?」
なんて驚いていたら、先輩に「よかったじゃん。ラブラブ出来るね」なんて言われて固まってしまった。
はっ、ここで私がお泊まりしたら、先輩と宮さんふたりっきりになるんじゃ!? なんて気がついてしまって、北さんの誘いに乗ることにする。
宮さんと先輩に手を振って、私たちは北さんのおうちへと帰った。
北さんのおうちへとたどり着くと、すぐにキスが降ってきた。玄関先で汗だくのまま、土だらけになった格好のままで、深く深く口づけられる。私ももっとくっついていたくて、ぎゅううぅっと北さんに抱きついた。
「〇〇ちゃん、お風呂一緒に入ろか?」
「ひぇ!?」
「今度は一緒に入ろって言うたよな?」
「い、言いました、けど…っ…」
「じゃ、入ろ」
そう言って私の服の中に手を入れてくる北さん。それだけで頭がくらくらしてくる。
「きたさ…ん…っ」
「〇〇ちゃんも北になるんやから、信介って呼んで?」
「しん、すけ、さん……?」
「さん付けも敬語も、そのうちやめてや?」
「はいぃ……」
汗をたくさんかいたので、早くお風呂に入りたくてしょうがない。それよりも、早く信介さんに触れたくて、触れられたくてどうしようもなかった。
お風呂が沸いたお知らせ音と同時に、私たちは浴室に向かった。ドキドキが凄かったけれど、それよりも触れられたい欲の方が強かった。 胸の奥は今日もまた、爆速で音を奏でていた。