北さんと深まる秋

「急に寒くなったね」

 いつもと同じ朝、隣に並んで歩く信介くんにそう言うと、彼は「おん」とだけ言って前を向いた。数日前まで夏の暑さが残っているようだったのに、今日から急に季節が変わってしまったようだ。バス停に着くと、待ち時間に吹きつける冷たい風が身体を冷やしていく。タイツも履いてくれば良かったかな。

「名前。それ、似合うとるで」

「え?」

「カーディガン。かわええ」

 寒くなったからと急いでひっぱり出したカーディガンを、着てきたのは正解だった。普段あまりそういうことを言ってくれない信介くんだけど、たまにこういう言葉をくれることがある。彼も私と同じように、秋の訪れに浮き足立ったのだろうか。

「信介くんは、冬用ジャージ羽織ってきたんだね」

「寒かったからな。引っ張り出してきたわ」

「……それ、一回着てみたいな」

「? こんなもんをか?」

「彼ジャーっていうんだって。彼氏のジャージ着るの」

「……」

「……ごめん、忘れて」

 ちょっと調子に乗りすぎたかな。反省して下を向いた瞬間、後ろからがばりと抱きしめられて、驚いて顔を上げた。あったかい感触が身体を包んでいく。秋の匂いに混じって、信介くんの匂いがした。

「こうすれば、羽織っとるのと同じやん」

「ひえぇ!?」

「カーディガンの方がかわええけど、これもええな」

 顔を斜めに上げると、信介くんの下がる目尻がみえた。やさしく微笑まれてしまえば、もう動くことさえできない。このひと、こうして私の欲しいものをくれるんだよね。ずるいなぁ。

「信介くん、ずるいよ」

「ずるいのは名前やん。可愛すぎやて」

「~っ! どうしたの、今日?」

「ん~。名前がかわええから」

 ブロロロロ、とバスのエンジン音がきこえて、ひっつけるのも一旦お預けだなと思った。バスが停まって、プシューとドアが開く。その瞬間に握られた手は、冷たくてあたたかい。

 手を繋いだまま乗ったバスは、私たちふたりの時間をもう少しだけ繋いでくれた。

※ワーパレお借りしました『カーディガン/下がる目尻/欲しいもの』

※タグ企画で書かせていただいたものです

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