外を吹く風が涼しくなり、すっかり秋めいてきたこの頃。明日は休みだ。いつもの休日前と同じようにお泊まりの準備をして、研磨のうちへと急ぐ。途中で寄るのはスーパー。挽肉と玉ねぎと、それから彼の好物であるアップルパイの材料を買い込む。いつもの光景だけれど、今日は少し違った。そう、彼の誕生日だからだ。
彼は毎年誕生日には生配信を行う。だから、絶対ジャマをしちゃいけない。普段は隣の部屋で、研磨の予備用のゲーム機で遊びながら配信が終わるのを待つのだけれど、これも今日は違った。ご馳走を作るためだ。
正直料理は得意じゃないけれど、配信してる間にご飯を作って、デザートまで用意しちゃうんだから!
研磨の仕事部屋から聞こえてくる声に心地良さを感じながら、張り切って料理を作る。ハンバーグはちょっと焦げてしまったし、アップルパイは形が崩れてしまったけれど、私にしては上出来だと思う。
あとは配信の終わりを待つだけだ。
そう思っていたその時、配信部屋から「今日は皆さんに紹介したい人がいます」と聞こえてきた。
え? このうちに今誰か来てるの? 誰!?
「名前、こっち来て」
研磨の仕事部屋の扉が開いて、おいでと手招きされる。エプロン付けたままだし、化粧は崩れているだろうし、変な汗がとまらない。
え!? 紹介したい人ってもしかして……!?
『コヅケン誰〜? 彼女!?』
『おっ可愛い』
『女だ』
『これはまさか!?』
そんなコメントが流れていたらしいけど、それを知るのはもちろんあとの話で。私は今とてもテンパっています。な、な、なんで私が生配信に出てるの!?
「俺の嫁」
「ひぇえ!?」
『おお〜!』
『コヅケン奥さんいたの!?』
『勝ち組じゃん!』
「正確には、これから嫁になる人だから」
「ひぇっ!? 何これドッキリ!?」
「うーん、ドッキリっていうより、サプライズ?」
「!?」
「名前、俺と結婚して?」
「……は、はい」
『おお〜!』
『おめでとう!!!!』
『まさかの公開プロポーズ!』
まさかのまさか、私は生配信中に公開プロポーズをされてしまったのだ。「ドッキリ!? ドッキリ!?」と騒ぐ私に、研磨は「だから本当だって」と半ば呆れた顔をしている。そんな表情をみせながらも彼の口角はぐぐっと上がっていて、これが事実なんだなと思わされた。
その日SNSでは『公開プロポーズ』『コヅケン』『名前ちゃん』がトレンド入り。ニュースでも『KODZUKEN婚約!公開プロポーズ!』の記事が並んでいた。
焦げたハンバーグの味も、崩れたアップルパイの味もよく分からなくなってしまったけれど。彼の誕生日は、忘れられない一日になったのでした。