「げっ」
彼氏ーー、侑のオフの日のことだった。わりと顔が知られている彼と、外でデートをすることは少ない。けれども今日は珍しく、彼から買い物に行こうと誘ってくれたのだ。
楽しいはずの久々のデート。けれども侑は今、しかめっ面で目の前にいる人物を睨んでいる。
「なんでおんねん……」
「久々会うたのに、その言い方なんやねん」
平日午前中のショッピングモール。休日と比べて人がまばらな時間帯に、私は初めてその人と対面した。私たちの目の前には、侑とそっくりな顔の男性が立っている。
知っている。この人は侑の双子の兄弟の、治さんだ。
「侑の彼女さん?」
「あっ、はい! 苗字名前と申します」
「俺のことは知っとるよな? へぇ、かわええやん」
治さんがそう言った瞬間、侑が彼のことをギロリと睨んだ。どうしてだか侑は顔をしかめていて、とってもふきげんそうである。
「俺おにぎり屋してるから、ふたりで食いにきてや」
「そうなんですか!? 是非行きたいです!」
「……名前。もう行こうや」
「えっ、久々に会ったんでしょ? いいの?」
「ええんや。ほなな!」
侑は治さんに冷たい態度を取ると、私の手を掴んで歩きはじめてしまった。後ろを振り返ると、治さんの姿がどんどん小さくなる。仲良くないのかな? なんて思ってしまうくらいに、侑はイライラしているようだった。
「どうしてイライラしてるの?」
「イライラしてへん」
「……私なんかのこと、治さんに紹介したくなかった?」
「……! ちゃう!」
「そうじゃん! 私にずっと治さんのこと紹介しなかったし、お店してるのだって知らなかったとん!」
「~っ、あんなぁ!」
その瞬間、ショッピングモールのど真ん中でぎゅっと抱きしめられた。突然のことにびっくりして、頭が回らなくなる。
あれ!? 私たち、今ケンカしかけてなかったっけ!?
「だって、おんなし顔やん」
「?」
「名前がサムのこと好きになったら困る思うて」
「……!?」
「名前かわええし、会わせたくなかったんや」
「……全然違うじゃん。似てないよ。大体そんなので簡単に侑のことイヤにならないし」
「……ほんま?」
「うん」
そう言ったら、侑はますます強い力で私を抱きしめて、「名前大好きやー!」と叫んだ。あれって宮選手じゃない!? と声が聞こえたけれど、彼にはそんなことは関係ないらしい。
だから私も気にせずに、彼のことをぎゅっと抱きしめた。大好きだよ、侑。