「お、お、お疲れ様!」
冷めることのない体育館の熱気に、今が冬だということを忘れてしまいそうになる。このあと外に出たら、ぼんやりとした頭がすっきりしてちょうどいいのかもしれない。その中でも確かに高揚感はあって、胸の高鳴りをひとことでは言い表せない苛立ちに包まれていた。
「来てくれたんだ」
「うん」
きっと研磨くんにとって、彼女である私が応援席にいるかいないかなんて関係なくて、来ているのかすら把握されてなくて、そんなことは承知でこの場に来た。不思議と寂しい気持ちはない。あんな研磨くんを見るのは初めてだった。そうさせる相手が私じゃないことも、悔しくないし嫉妬もしない。
けれども、試合のあとはなぜだか涙がとまらなかった。
「泣いたの?」
「ん、感動した」
研磨くんが一歩近づいて、私の頬に触れる。少しひりひりする目尻をなぞられたものだから、「ひゃ」と変な声が出た。
だって、チームメイトの皆さんがそこにいるし、知らない生徒たちもうろうろしているというのに。こんなところで。やさしく触れてくれるなんて。
「研磨さん彼女さんっすか?」
後輩くんの言葉に、一瞬にして周りがざわついたのが分かった。研磨くんははいともいいえとも言わずに、数回まばたきをして、それからふっと笑った。
キャー! と聞こえる女の子たちの悲鳴と、ひょうひょうとしている研磨くんの温度差が本当にずるい。彼のぬくもりを独占しているのが自分だけだという事実に、気絶してしまいそうになる。
「えっ、彼女!? いたの!?」
「可愛いじゃん」
「普通じゃね?」
「普通すぎてびっくり」
応援に来ていた他の生徒たちの視線が、一気に私の方へと集まる。そんなにジロジロと見ないでほしい。だってさっきまで私たち、付き合っていることすら誰にも言っていなかったのに。けれども研磨くんはそんなことは気にもせずに、「目、赤い」と言って私の頭をぽんぽんと撫でた。
「見られてるよ」
「いいよ、そんなの」
「観に来てよかったの?」
「うん」
「……わたし、面白い女じゃないけどいいの?」
「そんなこと気にしてたの?」
研磨くんをあんなふうにさせられるのが、私じゃないってこと、気にしていないつもりだった。嘘、たぶん本当は気にしていたし、バレーボールにすら嫉妬していた。でも今、もしかしたら彼をこんなふうに甘くさせられるのは私だけなんじゃないのかって、その可能性に気づいてのぼせてしまいそうになる。
「先帰るでしょ? じゃ、また明日」
「明日?」
「明日はオフだし」
こちらの都合も聞かずに、デートの約束を取りつけてくる研磨くんが愛おしくてしょうがない。ぽかんとしているチームメイトたちと、騒いでいる生徒たちと、何やら叫んでいる山本くんの声と。そのざわめきの中で、研磨くんはふっと笑って私に背を向けた。……その顔ずるすぎる。
「研磨の彼女ちゃん? へー」
「ひゃ」
先程まで嫉妬対象のひとりだった黒尾先輩の声が届いて、緊張のあまり体がよろめいてしまう。たぶん私より彼のことを知っている先輩が、「研磨のことよろしくね」とやさしく笑って、その場はまたざわめきに包まれた。
明日はデートだ。何の話をしよう。きっと今日の話じゃなくって、なんでもない普通の話をするんだろうな。そして私にだけ見せる顔を眺めて、優越感に浸るんだろう。贅沢な権利を噛み締めながら、お辞儀をして帰路についた。