幼馴染とその彼女が一線を超えたらしい。
誰に聞いたのかって? 研磨が俺に話すわけがないでしょ。とはいえ彼女の方から俺に報告してくるはずもない。つまり……。
雰囲気で分かってしまったんですよねぇ。なんっつーかこう、ボディタッチ多くない? みたいな、そんな距離感で話してたっけ? みたいな、余裕が垣間見えてるよね? みたいな。
何よりも、先に進んでいないことを悩んでいた彼女の表情が、晴れていることが何よりの証拠でしょ。
そういうことは聞かないのがオトナのマナーだと思う。でもね。でもですよ。研磨は俺の幼馴染なわけですよ。つまり、俺は彼といると中二くらいの頭に戻っちゃうんですよ。ねぇ、この中二感、どうしてくれるんですか研磨くん。
聞くなら今。今しかない。キョロキョロと周りを見回し、研磨の姿を探した。うん、キッチンにいる。みんなは鍋をつつくのに夢中になっているし、彼女の方は女子トークが盛り上がっているようだ。あー、もう無理。聞きますよ!? 俺は聞いちゃいますよ!?
俺は新しいビールを取りに行くフリをして、そっとキッチンへと向かった。冷蔵庫を漁っている研磨の後ろから、そっと声をかける。
「ねぇ、研磨くん」
「なに」
「上手くいったようで何より」
それだけ伝えただけなのに、ぎろりと睨まれた。なんで。
「きもちよかった?」
「またすぐそういうこと言う」
「だって気になるでしょ」
「幼馴染のそういう話聞いて楽しいわけ? クロは」
「めーっちゃ楽しい」
「……」
「っていうか、否定しないってことはしたんだ? オメデトウ」
またどうせ『うるさい』って睨まれるんでしょうね。分かってますよ、幼馴染の言動くらい。
ところが研磨は動きを止めて、頬を真っ赤にして固まってしまった。何かを思い出したかのように。冷蔵庫から、早く閉めろと音が鳴り始める。えっ、えっ、何この反応!? こんな研磨くん初めて見るんですけど。
ん、もしかして。この人たち……。
「……二回目のタイミングで、悩んでるとか?」
「聞こえない」
「ビンゴ!? 俺オトナだからこういうの分かっちゃうんだよね」
「オトナだったらそういうこと聞かないしうるさいし!」
「っは! あはは! ちょ、研磨くん真っ赤〜! え、オニーサンが教えてあげよーか?」
「知らない!」
研磨はバタンと冷蔵庫を閉めて、みんなの元へと戻っていった。耳まで真っ赤になった研磨を見て、リエーフが「研磨さん飲みすぎました?」なんて言っている。察してしまったらしい彼女だけが、研磨の方を見て顔を赤く染めた。
「じゃ、今日は早めにお開きにしましょーか」
あー。あー! あーー!!
もうこのふたり、じれったすぎでしょ。本当に。これは彼女の方にも一言入れ知恵しておかねばならない。
「ねぇ」
「クロさん」
「泊まっていくんでしょ?」
「えっ!? えっ!?」
「研磨くんが泊まってほしいって言ってたけど? じゃ、俺たちは片付けたら帰るからふたりの時間楽しんで」
そこまで伝えたところで、研磨に睨まれたのでそれ以上話すのはやめておいた。研磨くん、独占欲強いからね。
俺の言葉で真っ赤になってしまった彼女は、同じく真っ赤になったままの研磨と目を合わせて黙りこくっている。あー、俺、何見せられてんの。
ま、今夜はお熱い夜になることでしょ。さっさと帰りますかね。
そんなことを考えながら、俺は高速で皿を洗ったのだった。