ぽつり、と鼻の頭に何かが降ってきた。白く光っているそれは冷たく、皮膚に触れるとじわりと溶けていった。
「雪降りはじめたね」
「そっすね」
放課後の、部活が始まる前のちょっとした時間。この日ゴミ捨て当番の影山くんのあとについて、私も渡り廊下を進んでいく。私は当番じゃないけれど、この貴重な時間を無駄にしたくなかった。そう、私たちは恋人同士なのだから。
ゴミ置き場にたどり着くと、影山くんはゴミの入った袋を指定の場所に置いた。それからポケットに入っていたアルコールジェルで手を消毒して、「ん」と手を差し出してくる。私が手を握ると、「苗字さん、手冷てぇ」と言いながらぎゅっと握り返された。
「影山くんだって」
「苗字さん氷みたいだな」
「そんなに? ……あ」
ふたりで話しながら教室へと向かっていると、校舎の裏でイチャイチャしているカップルを見かけた。男子生徒が女子生徒を抱きしめて、今にもキスしそうな雰囲気だ。なんだか見てはいけないものを見てしまった気がして、自然とうつむいてしまう。
「……苗字さん、こっち」
はたして影山くんは今の光景を見たのか見ていないのか。たぶん、前者なのだろう。腕をぐいっと引っ張られて、彼の後を追う。たどり着いたのは誰もいない非常階段で、コンクリートの上には雪が少しずつ積もりはじめていた。
「ん」
そう言って腕をひろげて、抱きつかれる用意をしている影山くん。驚いて動けずにいると、影山くんの方からぎゅっと抱きしめてきた。見上げると、いつもは高い位置にある彼の顔が少し降りていて、鼻と鼻がぶつかった。触れ合った鼻先が冷たいな、なんて思っていたら、今度は唇に触れる熱。じんわりとあたたかさが広がって、雪のように溶け合ってしまいそうだ。
キス。意外と好きなんだよね、このひと。
「〜っ、ひゃあっ!?」
次の瞬間、冷たさを感じたのは私の背中だった。制服の隙間から入ってきた彼の手が、すりふりと皮膚を撫でている。少しずつ上昇してきた手が身につけているものに触れた瞬間、「だめっ!」と彼の手を引きずり出していた。
「……なんで」
「ここ、学校」
「だめっすか」
「だめです」
「苗字さん」
「なに」
「触りてぇ」
お願いします、そんな顔で見つめられたから、「一分間だけだよ」なんて甘い返事をしてしまった。ああもう。断れないんだなぁ。
「あざす」
「影山くんってむっつりだよね」
「……」
「否定はしないんだ」
「そんなもんだろ、男なんて」
「はい、一分経った!」
「早ぇ……」
服を正して、何事もなかったような顔をして非常階段を降りていく。先程の場所にいたカップルはもういなくなっていて、私たちの頭には真っ白な雪が積もっていた。
「苗字さん、木曜日」
「?」
「部活休みなんで」
「うん?」
「苗字さんのこと、もっと触っていいっすか」
「〜っ!」
ねぇ、影山くん。あなたって本当にずるいよね。ずるすぎる。この日から降り続いた雪が積もる頃、私は影山くんの手によって色々と暴かれてしまうのだった。