「苗字のことが好きだ! 俺と付き合ってほしい」
力とは中学の頃から一緒だった。男女バレー部同士顔を合わせることも多かったし、何でも気さくに話せる仲。それは力が春高に出場した後も、主将になったあとも変わらず、男女の垣根を越えたいい友達なんだとそう信じて疑わなかった。まさかこんな形でふたりの関係性が変わるとも知らずに。
「まってまって! 力私のこと好きなの!? いつから!?」
「中学の頃からずっと好きだったよ」
友情という関係性から進むのか、下がるのか。告白されてしまった今、選択肢はその二つしか存在しないような気がした。力の顔を見上げると、真剣なまなざしで見つめてくる彼がそこにいた。力、本気なんだ。中途半端に応えるわけにはいかない。
「……ごめん。力のことそういう風に見たことない」
「そっか。ごめん、時間取らせて」
私のごめんを聞いた力は、いつもの柔らかな笑顔でそう言った。彼の眉尻が下がる。どうしてだか、この関係性が変わってしまうことが怖いと感じてしまう。
「……ねぇ! 私たちこれからも友達でいられる?」
自分勝手な質問だったと思う。力ならきっと、笑っていいよって言ってくれると思っていた。甘えていたんだなぁ、私。力の優しさと強さに。
力が、再び眉尻を下げて笑う。
「ごめん、それはちょっとキツイ」
友情という関係性から進むのか、下がるのか。その二つしか存在しないようなその予感は的中して、私たちは友情という関係性から一歩下がってしまった。
◇
力を振ってから二ヶ月。会えば「おはよう」くらいの挨拶はしたし、部活関係の会話を交わすこともあった。でも前みたいに、無駄話をしたり笑い合ったりすることはない。それを寂しいと思ってしまうのは、自分勝手なことなのだろう。
そんなこんなで訪れた体育祭。今、女子の部活対抗リレーを走りきった私は、待機列から男子部のリレーを眺めている。周りの女子たちは、レシーブやトスをしながら走る後輩くんたちを、きゃあきゃあ騒ぎながら応援しているようだった。
「次主将じゃん!」
「縁下先輩〜! かっこいいよね!」
「え〜、私も狙ってたのに〜」
マジか。
聞こえてきた言葉に、どくりと心臓が高鳴るのを感じる。春高に出場したあとの男子バレー部は、確かに爆モテした。日向くんや影山くんはもちろん、あの田中も告白されていたし、もしかしたら力も告白されたことくらいあるのかもしれない。けれども、ここでモヤモヤするのは本当に自分勝手だ。力は私のものじゃない。
そんなモヤモヤを抱えながら、すっと顔を上げる。目に飛び込んできたのは、バトンならぬバレーボールを渡された力の姿だった。
まっすぐな背中、伸びた腕に当たるボール。しっかりしたレシーブが続く。走りながらレシーブするなんて難しいことを、確実にこなす彼に向けて拍手が起こる。女子たちはきゃあきゃあと声をあげて、「せーの! 縁下先輩ー!」と応援していた。
あー、やだなぁ、もう。こんなの。私今、周りの女の子たちに嫉妬している。醜いよね、ばかだよね、ずるいよね。私きっと、力が思うような女の子じゃないよ。でもさ、もしもあなたがまだ私のことを好きなのならば……。
「力! 頑張って!」
気がついたら叫んでいた。一瞬彼の動きが止まって、ボールが宙を舞う。確実なレシーブは私の一声により阻止され、飛んでいったボールは私の身体に着地した。ボールを追いかけて走ってきた力に、急いでそれを手渡す。
「力、ごめん」
「〜っ、苗字、かけ声はずるい」
耳まで真っ赤に染めてそう言う力を見て、確信してしまう。このひと、まだ私のこと好きなんだ。去っていく彼の背中を目で追いかける。どうにか三位でアンカーにボールが渡って、喝采は影山くんに持って行かれてしまった。そんなアンカーのごぼう抜きも頭に入ってこない。かあっと身体が熱く燃えあがる。力の顔が、声が、頭にこびりついてどうしようもない。
本当、今更すぎるよね。……これは恋だ。
「名前、さっきの何!?」
「付き合ってんの!?」
もちろんそばにいた部員たちは見逃すことなんてしない。問い詰めてきた彼女たちに「これから告る」と宣言して、私は立ち上がった。すうっと息を吸い込んで、大声を張り上げる。
「縁下力ー! 聞け! 私はあなたのことがす……」
「待て! 俺からもう一度言わせてほしい!」
もう一回って何!? と騒ぎはじめるギャラリーの声がうるさい。照れくさくてしょうがないけれど、今はふたりだけの世界だと想像してみることにする。
「苗字のことが好きだ! 返事は!?」
友情という関係性から進むのか、下がるのか。告白されてしまった今、選択肢はその二つしか存在しない。私は頭上で大きなマルを作った。ワー! と歓声があがる。
今日、私たちの関係性は前に進んだ。