二人三脚ですっ転んだら夜久衛輔に担がれてまんまと惚れた

 体育祭は彼氏が出来るチャンスらしい。

 非日常に盛り上がった男女たちが盛り上がり、なんかこいつのこと好きだとかいう思考に至り、告白し合う構図が出来上がっているそうだ。友人談なので、信ぴょう性については知らない。

 まあ私も年頃だし? 彼氏ほしいな、くらいは思っていたわけだし? そんな、がっついてまでほしくはないんだけどね? 期待はしちゃうものでしょう!

 そんな体育祭まであと少し。彼氏が出来る確率ナンバーワンといわれる(これも友人談)、男女ペアで行われる二人三脚のペア決めの日が訪れた。決め方はクジ引き。どうせペアになるなら、高身長イケメンがいいな。例えば黒尾くんとか。身長差あると走りにくそうだけど、それはそれこれはこれ。力ありそうだし、よろめいたら支えてくれそうだし。

 なーんて思いながら女子のクジの箱に手を突っ込み、中にある紙を握る。開いた紙に書かれた番号は十二番。さて、これから同じ番号を持っている男子を探さなければならない。

「俺十二番だ! 女子の十二番誰だー?」

 聞き慣れたその声に顔をあげる。「私十二番!」と手を挙げると、目が合ったのは男友達の夜久だった。

「なんだ、夜久か」

「なんだってなんだよ」

「ま、……走りやすいよね! 私たち一位狙えるんじゃない?」

「おい、誰が身長同じだから走りやすいって?」

「そこまで言ってないし! 自分で言ってんじゃん」

 夜久に身長の話はするなと周知されている。けれども私たちはそれをネタに出来るほどに仲が良い。単純に、一番仲の良い男友達だ。

「高身長イケメンじゃなくて残念だな」

「え、夜久ってエスパーなの?」

「苗字の考えてることくらい単純すぎて読めるんだよ」

「はぁ〜? 誰が単純バカ女って?」

「そっちこそ自分で言ってんじゃねぇか」

 私たちのやりとりを見て、どっと笑いが響く。こんな関係ももう三年目。きっとこれからもこの関係が続いていくのだろう。そう信じて疑わなかった。体育祭本番の、あの時までは。

 体育祭の日は、見事な秋晴れだった。暑い日が続くとはいえ、空に浮かぶ雲は新しい季節を表している。

 二人三脚の練習は順調で、私と夜久は常に一位を保っていた。しかも、毎回ダントツ。その度に私たちベストコンビだね! 夜久が相手だと走りやすいわ〜、なんて言って笑い合っていた。

 正直、異性として見ていなかったのが本音だ。だって身長一緒だし、きっと体重も筋肉量の差くらいだろうし、肩組んで走っていても意識したことないし。きっと相手が高身長イケメンだったら、意識しすぎて走れないくらいなんだろうけど。

 そうして訪れた本番、今日もダントツ一位に違いないと信じていた。気が抜けていたんだと思う。緊張なんかひとつもしなかった。だってそうでしょう。一番仲の良い男友達と、ベストな形で走れるのだから。

 パァンと鳴ったピストル音と同時に、「せーの、いちに!」と声を合わせて走り出す。いつもの練習と違うのは、今日の土が少し乾燥していることくらい。ゴールまであと約三メートル。私の足が滑ったのはその時だった。

「あっ」

 夜久と結ばれているのと反対側の足が傾いて、そのまま重力に逆らえずに倒れ込む。夜久の体と共に、べしゃりと地面に着地した。思いっきり夜久の体重を受け止めた私の身体が、びりびりと悲鳴をあげる。

 重……、じゃない! 立たなきゃ! 夜久から伸ばされた手を握って、彼の方に体重をかける。

「おい、大丈夫か!? 立てるか!?」

「むりぃ……、立てないし歩けないかも」

「ごめん、苗字の上に思いっきり乗っかった! 痛かっただろ!?」

「夜久重すぎぃ、痛いぃ……!」

「一応男だからな」

「そうでした……。ごめん。歩けないからリタイアしていい? 先生呼んでき……、ひゃあ!?」

 次の瞬間、ふわりと身体が宙に浮き上がる感覚に、思わず声をあげた。気がつくと私は夜久に抱え上げられていて、彼は救護テントに向かって走り始めている。な、何事!?

「夜久が苗字お姫様抱っこしてる!」

「ほら〜! あそこデキてんじゃん〜」

 そんな声が耳に届いて、身体がかあっと熱くなる。夜久が突然男の子になったような気がして、照れくさくてしょうがない。いや、はじめから男子なんだけど!

「ちょ、ねぇ! 重いから降ろして!」

「重くねぇ」

「むりむり! 絶対重いから!」

「だから重くねぇって。暴れんな」

「〜っ!」

 夜久は軽々と私を抱えたまま、グラウンドの一番端にある救護テントまでたどりついた。一緒に走っていた時は意識しなかったけれど、筋肉質な体つきしてるんだな、なんて気がついてしまう。意識したが最後、もう降ろしてほしくてしょうがなくて、体が暴れ出しそうになる。

 ……めっちゃ男子じゃん。

 壊れ物を扱うようにベッドの上に座らされて、「大丈夫か?」と顔を覗き込まれたらもう無理だった。近い。無理。爆発する。

「……な、これで俺のことちょっとは男として意識してくれた?」

「はっ!? え、えっ!?」

「っは、苗字顔真っ赤」

「な、な! 夜久だって真っ赤じゃん!」

「おう。俺はとっくに苗字のこと女として見てるからな?」

 そんな、男の子の顔して見つめないでよ。ずるい。こんなの好きにならないわけがない。本っ当にずるい。

 体育祭は彼氏が出来るチャンスらしい。

 非日常に盛り上がった男女たちが盛り上がり、なんかこいつのこと好きだとかいう思考に至り、告白し合う構図が出来上がっているそうだ。

 しかしこれはそんな単純なものじゃない。私は確信してしまった。

 これは、本物の恋のはじまり。

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