文化祭でシンクロ披露してる木兎光太郎を見に行ったらまんまと惚れた

 梟谷学園の文化祭に来てくれと誘われた。誘われたといっても、一緒に回ってほしいとかそういうんじゃない。
『プールでなんかやる! 見にきてくれ!』
 送られてきたのは、彼からの一方的すぎるメッセージだった。ハイともイイエともいう暇もなく、続けて『何時から!』『俺いちばん真ん中!』『名前が来るの楽しみにしてる!』と連投されたのち、文章と何の関係もない謎のスタンプが投下され、会話は終了した。私、行くって言ってないんだけどな。
 光太郎とは、同じ梟谷学園グループの合同合宿で知り合った。何かの流れで連絡先を交換し、時々こうしてメッセージでやりとりしている。まぁ、友達? みたいな感じなのだろう。
 学祭と聞いて、いやな気はしなかった。出向いたら梟谷マネちゃんたちに会えるかもしれないし、出店なんかも楽しそうだし、行ってみるのもいいかもしれない。
 そんなこんなで行くことに決め、友人ひとりをつれて、私は今ここ梟谷学園にいる。友人にひとしきり事情を説明すると、彼女は「へぇ、それだけのためにわざわざ見に来たの?」とニヤニヤしながら私を見た。まるで、何かを揶揄うかのように。
「だって来ないと絶対拗ねるし。後から面倒じゃん」
「ふーん。そう言って名前、その男の子に気があるんじゃないの!?」
「はぁ!? 無い無い!」
 頭にまったくその考えがなかったわけじゃない。バレーボールをしている時はカッコイイし、面白いし、優しいところもある。拗ねたりしょぼくれたり、ひねくれたりすることもあるけど、それもなんだかんだで可愛いなぁなんて思う。何より、彼と話していると元気を貰えるのだ。
 だからといって、イコール私が木兎光太郎を好き、にはならない。だって、あの光太郎だし。それに、向こうにもそんな気は一ミリもないと思う。
「でもこうして、わざわざ見に来たんじゃん〜」
「だから行かないと拗ねるんだって〜」
 そんなこんなで友人と喋りながら出店を回っていると、見慣れた人物と目が合った。首から『実行委員』のプレートが下げられ、何やら書類のよなものを抱えている人物。赤葦くんだ。
「あれ? 音駒のマネさん」
「赤葦くん!」
「もしかして……、木兎さんに呼ばれましたか?」
「まぁ、そんなところ。赤葦くんも出るの? プールであるなんとか、っての」
「いえ? 俺は実行委員なので」
「えっ!? そうなの!?」
 ええぇ……。赤葦くんが隣にいない光太郎とか心配すぎるんだけど、大丈夫なのかな!?
 なんだか心配になってきて、心がざわつきはじめる。まぁ、光太郎だって一年生だった時期があるわけだし、その時は赤葦くんいなかったわけだし。そもそも学年違うし。赤葦京治が隣にいないからって……。大丈夫……、よね!?
 そんな思考を巡らせている私を、不思議そうに見つめる赤葦くん。そんな私たちの間に割って入るように、誰かが「赤葦、彼女ー?」と叫んだのが聞こえた。違います! と答える暇もなく、赤葦くんが「いえ、木兎さんの……」と答える。
 ん? ンンンンン!?
「なんだ、木兎さんの彼女か! よく話してる……」
!? よく話してる!? 何のこと!?
「では、俺は委員の仕事があるのでこれで」
「あ、うん! じゃーね」
 なんだか光太郎の彼女です、みたいなこと言われた気がするんだけど、気のせいだと思うことにしよう。彼女とは言っていないし。友人は友人で、去っていった赤葦くんをぼーっと見つめている。
 屋台でも回ろうかと声をかけ、友人を現実世界に連れ戻したところで、「マネちゃん!」と誰かに声をかけられた。振り返るとそこにいたのは、梟谷のマネちゃん二人。手を振る雀田ちゃんと、両手いっぱいに食べ物を抱えた白福ちゃんの姿がそこにあった。
「白福ちゃん! 雀田ちゃん!」
「もしかして木兎に呼ばれてきた?」
 なんてニヤニヤしている雀田ちゃんに、「そう、なんだけど……」と返す。チュロスをガジガジと齧っている白福ちゃんにまで、「赤葦いなくても大丈夫だね〜」なんて言われてしまった。
 ンンンンン!? 私は木兎光太郎の何なんでしょうか!
 二人に手を振って、光太郎が出演する『プールでやるなんとか』を見るために移動する。プールで何するのか知らないんだけど。あの光太郎が赤葦くん無しで何かを披露する。そう思うと、私の方が緊張してきた。「ねぇさっきのなんとか葦くんってさ、彼女とかいるのかな!?」なんて聞いてくる友達の言葉に、まともに取り合う余裕はもうなかった。
 『有志男子によるシンクロナイズドスイミングショー』
 プールのフェンスに貼り付けられたポスターを見て、なるほど、光太郎が言っていたのはこれのことかと把握する。観覧席の最前列に座ったところで、プールサイドから手を振る木兎光太郎と目が合った。「名前ー!」と叫びながら、ぶんぶん手を振っている。ひぇえ、目立つ!
「木兎の彼女だ!」「噂の子か!」「へぇ、本当にいたんだ!」
 周りからそんな声が飛んできて、パニクる私。噂の子!? ねぇ光太郎、私のことなんて話してるの!?
「アンタ、彼女認定されてるよ! ウケる!」
 さっきまで赤葦くん赤葦くんと騒いでいた友人は、お腹を抱えて爆笑している。彼女認定! なんだそれは!
 なんだかみんなに見られているし、騒がれてるし、今すぐ逃げ出したくてしょうがない。けれども私には、木兎光太郎を見張っておくという使命があるのだ。そうしないと拗ねるし、赤葦くんいないし。まぁどうせ、目立ちたいだけでしょ。
 やれやれ。しょうがないから見てやるか。なんて、そんな軽い気持ちでいた。光太郎の演技を見るまでは。
 開始時刻と同時に、ピーッと鳴った笛の音。音楽が始まり、男子生徒たちが一斉に水中に飛び込む。曲に合わせて魚のように動く生徒たちの中で、一際目立っているその人物。円の中央にいるのは、私の知らない木兎光太郎だった。
 な、な、何コレ!? めっちゃくちゃカッコイイんですけど!?
 いやほら、バレーボールしている時カッコイイのは知ってるのよ。でもさ、しょぼくれモードとか知ってるわけじゃん。そんでもって赤葦くんが隣にいるわけじゃん。赤葦くんが隣にいないのに本気モードのカッコイイ木兎光太郎なんて見る機会なかったわけじゃん。
 ンンンンン!? 何だコレ!
 あっという間に演技が終わり、パチパチと拍手が巻き起こる。終わったというのに、男子生徒に肩車されてその上に立つ木兎光太郎。彼はこちらに向けてぶんぶん手を振ると、「名前ー! 見ててくれた!?」と叫んだ。どっと笑いが起こる。ちょ、まじでやめてくれ!
『おや木兎くん、彼女さんが見てくれたのが余程嬉しかったようですね!』
 放送委員らしき人が、マイク越しにそう話してまたどっと笑いが起こる。彼女じゃないです! そう叫びそうになったその時、光太郎の声が響いた。
「いや! 名前は彼女じゃない!」
 えっ!? そうなの!? なぜかそう思ってしまった私と、同じ反応をする周囲。じゃあ木兎の彼女認定されてたあの状況は何だったんだ。どうしてだか、寂しい気持ちになってしまいそうになる。けれどもそんなものは一瞬で、次の瞬間には木兎光太郎によってまた陽の元へと連れ出されていた。
「名前はこれから彼女になる予定!」
 そう叫ぶ声が届くと同時に、ワー! とあがった歓声がうるさい。ツッコむ暇もなく、続けて光太郎の声がまた響く。
「名前ー! 好きだー! 俺の彼女になって!」
 塩素のにおいと秋晴れの空。その下に広がるプールの真ん中で、目立つ男が世界一目立つ告白をしている。しかも、私に向けて。
「返事は!?」
 なんなんだ、この状況。
 こんなのもう、ハイって言う以外に選択肢がない。
 惚れるわ。

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